エリック・バーカー『残酷すぎる成功法則』の要約と解説

エリック・バーカー『残酷すぎる成功法則』の要約と解説をしていきたい。

世の中の様々な「成功した話」を、エビデンスベースで検証し、実際に効果的な「成功法則」とは何なのかを考察する。

あるトピックに対して、それぞれ反対の結論を出した複数の研究結果を並べて紹介していく構成が主で、膨大な量の引用をしているのが特徴だ。

ここでは、あえて結論の部分だけに注目して、ざっくりと要約&解説をしている。エビデンスを提示する検証部分に価値がある本でもあるので、ちゃんとした内容を知りたい人は、ぜひ本文を読んでもらいたい。

第1章 成功するにはエリートコースを目指すべき?

「第1章」では主に、「エリート」と「天才」の対比がされている。

多くの人が、学校の成績や何らかのテストの結果によって、ある人を「良い、悪い」「能力が高い、低い」と判断している。

しかし、テストによって計測できるのは、絶対的な能力ではなく、「言われたことをきちんとする能力」である場合が多い。アメリカの大富豪の学生時代の成績(GPA)を調べると、トップクラスの成績の人は少なく、「大成功」と「大学での優秀さ」は特に関係がない。

むしろ、言われたことをきちんとする能力と、何らかの大成功をおさめる素養は、相反する部分がある。

「優秀である」の延長に「抜きん出ている」があると考えられがちな一方で、「抜きん出ている人」を調査すると、欠点を持っている人が多く、とても「優秀」にはなれないような人も多い。

本書では、「ふるいにかけられた」タイプと、「ふるいにかけられていない」タイプという言葉を使っている。このふたつは、良し悪しがあるのではなく、タイプが違うのだ。

「ふるいにかけられた」タイプは、「秀才」と見なされやすく、社会から信用されやすい。ただ、ルールを理解して堅実に立ち回ることが得意だが、決まった道がなければ苦戦しやすく、レールから外れてしまうと大きな挫折を味わいやすい。

「ふるいにかけられていない」タイプは、「天才」と見なされやすいが、既存のルールで良い成績をおさめようとしても、うまく行かない場合が多い。自分に合った環境で大成功をおさめやすい一方で、平均的な成功を狙うと失敗しやすい。

まず自分がどちらのタイプか知ることが重要であり、どちらのタイプだったとしても、自分に合った環境で活躍しようとすることが成果に繋がる。欠点や弱点が多いからといって悲観し過ぎる必要はないし、エリートコースを歩んでいるからといって他に優ると慢心してはいけない。

 

第2章 「いい人」は成功できない?

「第2章」では主に、「利他的な人(いい人)」と「利己的な人(悪い人)」の対比がされている。

研究によると、利己的な人のほうが、そうでない人よりも年収が高いという調査結果が出やすく、企業のCEOなどの職にはサイコパス傾向の高い人が多い。一方で、利己的な人は、短期的には成功しやすくても、長期的には、自らが成功するための環境そのものを破壊しかねない。

本書では、

ギバー(受け取る以上に、人に与えようとするタイプ)

マッチャー(与えることと、受け取ることのバランスを取ろうとするタイプ)

テイカー(与えるより多くを受けとろうとするタイプ)

の分類に分け、どのようなタイプの人が成功しやすいのか、という調査に着目している。

これらのうち、「ギバー」は上位と下位に見られる傾向で、「マッチャー」と「テイカー」は中間に位置しやすい。

「ギバー」の中でも、際限なしに相手に与えようとする「ギバー」は、最も成功しにくくなる。一方で、ほどほどに与えようとする「ギバー」は、成功者に見られる特徴だ。あるいは「マッチャー」の仲間に囲まれている「ギバー」も成功しやすい傾向にある。

なお、「成功」ではなく「幸福」という観点から見ると、「テイカー」の特徴を持つ人ほど幸福度が低く、「ギバー」の特徴を持つ人は幸福度が高い傾向にある。

本書で成功法則として提唱されているのが、「しっぺ返し戦略」だ。基本的には協力の姿勢を見せるが、相手に裏切られた場合は自分も相手を裏切る。これによって、搾取される「ギバー」になるのを防ぎ、成功する「ギバー」を目指しやすくなる。

相手に好かれ、お互いの利益を追求できる関係を築いていくことが成功の鍵になるが、そのために、不正やごまかしが横行する職場ではなく、信頼関係が機能している職場を最初から選ぼうとすることも重要である。

 

第3章 勝者は決して諦めず、切り替えの早い者は勝てないのか?

「第3章」では主に、「グリッド(諦めずに最後までやり抜く力)」が成功の鍵なのか、あるいは切り替えが早いほうがいいのか、を検証している。

多くの場合、「グリッド」が成功の鍵であるというのは正しく、成功者になるためには「グリッド」が求められる場合が多い。

「グリッド」を育てるためには

  • 楽観主義であること、ポジティブな考え方をすること
  • 自分を前進させてくれるストーリーを持つこと
  • やるべきことをゲームに見立てて熱中すること

が効果的である。

一方で、時間は有限の資源であり、成功に繋がらない問題に「グリッド」を発揮することも避けたい。

本書では、「楽観主義」と「悲観主義」の対比が着目している。

  • 「楽観主義」は、「グリッド」を強化してくれやすく、チャレンジ精神なども与えてくれるが、物事を正確に認識しにくくなるという欠点もある。
  • 「悲観主義」は、物事を正確に認識させてくれやすいが、無気力に陥りやすい。

危機が迫って踏ん張らなければならないときや、何か新しいことにチャレンジするときなど、短期的な問題に対しては「楽観主義」が有効。一方で、明確な長期目標が決まっていて、それを確実にこなさなければならないとき、あるいは正確な判断が必要なときなど、長期的な問題に対しては「悲観主義」が有効だ。

初動のモチベーションや、短期的に頑張るためには「楽観主義」が必要で、長期的に頑張るためには「悲観主義」が必要なのだ。

とはいえ、ある物事に対して、楽観視すべきか悲観視すべきか、本当に自分がやり遂げるべき目標なのか、あるいは方向転換すべきなのか、というのは、一般的な法則を出せるわけではない。

本書が提唱しているのは、小さな投資を行うように、自分の時間の5〜10%を新しい何かへの挑戦にあてることだ。基本的には「グリッド」を重視しながらも、「トライ&エラー」できる部分を残しておくことで、ひとつのことに執着し過ぎる危険を減らし、より多くの可能性を追求しやすくなる。

 

第4章 なぜ「ネットワーキング」はうまくいかないのか

「第4章」では主に、「外交的」な人間と「内向的」な人間、どちらが成功しやすいかを検証している。

「外交的」な人間は、平均的に、お金を稼ぎやすく、社会的地位も高い。多くの仕事においてネットワーク(人脈)は重要な役割を果たす。おまけに、「外交的」であるほうが幸福度も高い傾向にある。

一方で、トップクラスの成果を上げた人間は「内向的」であることが多い。特に高い成績の生徒は内向的である場合が多く、トップアスリートの10人中9人が自分のことを「内向的」だと認識している。一流の成果を出すためには、「内向的」な性質が有利に働く。

「外交的」なリーダーは、従業員が受け身の場合ほど成果を出しやすい傾向にあり、「内向的」なリーダーは、自主性のある人々を率いる場合に本領を発揮しやすい。

人々の約3分の1を、極端な「内向型人間」と「外向型人間」のどちらかが占めるが、残りの3分の2は、その中間のスペクトラムに位置する。世の中のほとんどの仕事は、「内向性」と「外向性」の両方を必要とする。また、中間的だからといって突出した人間になれないわけではなく、例えば一流の外交官は、中間に位置する人が多い。

人に好かれる要素は、内向性ではなく外向性にある。人は「有能さ」よりも「優しさ」を常に好むからだ。「外向性」は一般的に高く評価されがちだが、何かに突出しようとするときに「内向性」は有利に働く。ただ、内向的でありながら、「人脈をつくる」「相手に好意を持たれようとする」「良いメンターを見つける」などの外交的な人が得意とすることを意識できれば、より成功に近づきやすい。

 

第5章 「できる」と自信を持つのには効果がある?

第5章では主に、「自信家」と「謙虚」、どちらが成功しやすいかを検証している。

自信があるほうが、様々なことにチャレンジしやすく、生産性を高めやすく、困難に対処する力が高まる。「自信」は、「賢さ」と同程度に、その人の収入に作用する。

リーダーシップについての調査でも、自信不足がチームの生産性に悪影響を与える一方で、自信過剰はチームの生産性に良い影響を与えやすい。

ときには、自信があるふりをするだけでも、大きな効果を発揮する。しかし、過剰な自信は、自分を欺くことに繋がるおそれもある。誰もが、多かれ少なかれ、何らかの錯覚をしているものだが、自信過剰は特に傲慢さに繋がりやすい。自信がありすぎると、現実が見えなくなり、他者と共感しにくくなる。

自信過剰な者は、無能な者よりもずっと危険であり、能力の低さが深刻な被害をもたらすことはそれほどないが、無根拠な自信が大惨事に繋がった例は多い。

「自信」は、チャレンジしたり困難に打ち勝つ力を与えてくれるが、それが行き過ぎると、コツコツ学び、改善していくことが困難になる。一方で、「謙虚さ」は、傲慢になることを防ぎ、現実を正確に把握し、検証と改善をしやすくしてくれる。

本書では、「自信」に代わるものとして、「セルフ・コンパッション(自分への思いやり)」が提唱されている。これは、自分自身に親切にするようなマインドのことを言う。自分を思いやることは、賢明さを維持しながらも、様々な困難に対処する力を与えてくれる。

 

第6章 仕事バカ……それとも、ワーク・ライフ・バランス?

第6章では主に、「大きな成果」と「人間関係」は両立しにくいのかについて述べている。

「投入した時間」は、何らかの成果を出すための、最も大きな要因と言える。そのため、人間関係を犠牲にして、練習や労働に時間を費やすと、成果を出しやすくなる。よって、「大きな成果」と「人間関係」は、基本的に両立しにくい。

家族や友人関係などを犠牲にして大きな成果を出した偉人は多く、結婚することが生産活動にマイナス効果を与えるという研究結果もある。

ただ、「投入した時間」は、結果を左右する最も重要な要素ではあるものの、時間さえかかえれば誰もが成功に近づくわけではない。慣れた手順を繰り返すのではなく、コンフォートゾーンを抜け出して技能を向上させようとする努力が重要になる。

また、創造性を求められる領域ほど、ひたすらの苦労は成果が出にくく、リラックスや睡眠、空想にふけるような時間が必要になる。

ハードワークが成功にも幸福にも繋がらない場合があり、それは「自己決定権や自主性がない場合」だ。自主的なハードワークにはメリットがある場合もあるが、自分以外にやらされるハードワークは非常に有害で、多くのものを無益に失う結果になりやすい。

労働時間の多さは、幸福に影を落としやすく、ハードワークをしているエリートは幸福度が高くない場合が多い。少なくとも、「自分の人生を自分でコントロールできている」という実感が、有益なハードワークのためには必要だ。

 

結論

本書では、「○○をやれば成功する!」というようなことは言っていない。そもそも何を「成功」とするか自体が人によって異なるので、特定の場合における有益な判断基準を、なるべく対立する意見を併記しながら紹介する、というスタンスで書かれている。

「結論」の部分で著者は、「成功者となるために、覚えておくべき最も重要なこと」として、「調整すること(アラインメント)」を挙げている。「自分はどんな人間か」と「どんな人間を目指したいか」のふたつを加味しつつ、そのバランスを調整していくことが成功に繋がる。

「○○をやれば成功する!」という最強の成功法則のようなものは存在しないし、もしそのようなものがあるのなら長い本を読む必要もない。本書に示された様々な研究結果を吟味しながら、適切な自己分析と目標設定を行い、調整していく作業こそが、『残酷すぎる成功法則』なのだ。

 

以上が、エリック・バーカー『残酷すぎる成功法則』の要約と解説になる。

他の書籍の「要約と解説」関して、気になるなら以下の記事も見ていてってもらいたい。

『サピエンス全史(上巻)』の要約と解説【ユヴァル・ノア・ハラリ】 『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』の要約と解説 田中靖浩『会計の世界史』の要約と解説【1/3】第1部 簿記と会社の誕生 ジェイコブ・ソール『帳簿の世界史』の要約と解説【1/3】 小熊英二『日本社会のしくみ』第1章の要約と解説【日本社会の「三つの生き方」】

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。