利己的な人と利他的な人、どちらが成功しやすい?【ギバー&マッチャー&テイカー】

エリック・バーカー『残酷すぎる成功法則』第2章「「いい人」は成功できない?」では、「利己的なタイプ」と「利他的なタイプ(いわゆるいい人)」、どちらが成功しやすいのか、という興味深いテーマを扱っている。

エリック・バーカー『残酷すぎる成功法則』の要約と解説

そこで紹介されている研究で面白いのが、ペンシルバニア大学ウォートン・スクール教授のアダム・グラントの、「ギバー&マッチャー&テイカー」の研究だ。この内容は、『GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代』という書籍に詳しく書かれている。

アダム・グラント教授は、

  • ギバー(受け取る以上に、人に与えようとする)
  • マッチャー(与えることと、受け取ることのバランスを取ろうとする)
  • テイカー(与えるより多くを受け取ろうとする)

という分類に分けて、それぞれの特徴を持った人が、どれくらい「成功」しているのかを調査した。

「ギバー」は両極端に分かれ、「マッチャー」と「テイカー」は中間

「成功」という尺度で見たとき、「ギバー」の性質を持つ人は、最上位と最下位の両極端に分かれやすいそうだ。つまり、同じ「ギバー」でも、「成功するギバー」と「失敗するギバー」に分かれる。

「マッチャー」、「テイカー」の性質を持つ人は、平均的に成功している。

では、何が「成功するギバー」と「失敗するギバー」を分けるかと言うと、「適度に与えるかどうか?」が決め手のようだ。

 

際限なしに与えようとする「ギバー」は、利己的な「テイカー」の餌食にされやすく、自分が与えたぶんの見返りを得られずに、低い待遇に甘んじてしまう場合が多い。

ほどほどに与えようする「ギバー」は、「テイカー」に搾取されず、他の「ギバー」や「マッチャー」と協力的な関係を築くことができるので、成功者に多い特徴となる。

考えなしに与えようとするのではなく、長期的に協力関係を築けそうな相手には与えるが、協力関係を築けなさそうな相手には与えないという判断をちゃんとしなければならない、という結論になる。

 

「テイカー」は短期的には成功しやすいが、その環境そのものを破壊する

『残酷すぎる成功法則』では、同調性の低い(非協力的な)人間のほうが、同調性の高い人間よりも年収が高いという調査結果も紹介されている。

企業のCEOはネガティブな特徴が多く見られ、「優秀だが非常」な性格の人間が良い成績を上げやすいという研究結果もある。「利己的な人間が成功しやすい」という証拠も、それなりにたくさんあるのだ。

だが、利己的な人間は、「短期的には成功しやすいが、長期的には環境そのものを劣化させていく」という特徴がある。利己的な人間は、たしかに成功しやすい傾向が見られるものの、利己的な人間が利益を得るような環境は、長期的には続かないのだ。

なお、利己的な人間は、利他的な人間と比べて幸福度が低い傾向にある、という調査結果も紹介されていた。

アダム・グラントは、「自己犠牲型のギバー」は失敗しやすく、「他者志向型のギバー」は成功しやすい、としている。

とにかく相手に与えようとする「ギバー」は、環境を悪化させる「テイカー」に力を貸していることにもなるわけで、モラル低下の原因ともなるし、迷惑な存在とも言えるだろう。

周囲の環境に気を配り、健全な「ギブ&テイク」が成り立つように配慮する「ギバー」が成功しやすいというのは、当たり前のことにも思える。

 

より現実的に考えてみる

以上までの話を聞いて、「ほどほどに与えられるギバーになろう」となるのもいいが、もう少し考えてみたい。

成功者に着目してその特徴を調査する研究の手続き上しかたのないことかもしれないが、成功者の特徴が「他者志向型のギバー」というのは結果論であって、「他者志向型のギバー」になろうと立ちふるまったところで成功に近づくとは限らないだろう。いくら自分が「利他主義」を発揮しようとしても、「利己主義」が蔓延するような環境でそれをやれば、むしろ状況は悪化してしまうからだ。

例えば、「ここでは長く働かないな」と考えている人が多い職場では、「利他主義」はあまり有効に機能しないかもしれない。

現在は、変化のスピードが速く、「長期的な信頼が成り立つような環境を作ることが難しい社会」でもある。与えたものが返ってくる環境を作るのは、簡単なことではない。

個人の特徴に着目した研究では、「どのような環境が利他主義を成り立たせるのか?」という重要な部分を見落としてしまっている。「地縁、血縁」「年功序列」「会社への忠誠心」「エリートであることのプライド」など、現在の先進的な価値観からは否定されるような不合理こそが、利他主義を成り立たせる要因だった可能性もある。

「利他主義が報われる環境を手にすることが成功に繋がる」というのはまったくそのとおりなのだが、それは決して簡単なことではなく、個人の性質以上に、社会の成り立ちや文脈に目を向ける必要があるだろう。

エリック・バーカー『残酷すぎる成功法則』の要約と解説

 

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