ハンス・ロスリング『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』の要約と解説をしていく。
バラク・オバマやビル・ゲイツが「世界の教養書」と絶賛している本であり、50万部を突破した2019年のベストセラーだ。
具体的なデータを見てしっかり検証したい人は、ちゃんと本書を読むべきだが、この記事ではあくまで記事の内容を簡潔に要約&解説している。
目次
イントロダクション
本書では、最初にいくつか3択のクイズを出している。
質問1 現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょう?
A 20%
B 40%
C 60%(正解)
質問2 世界で最も多くの人が住んでいるのはどこでしょう?
A 低所得国
B 中所得国(世界)
C 高所得国
質問3 世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう?
A 約2倍になった
B あまり変わっていない
C 半分になった(正解)
(本書では質問は13まで続くが、)このような3択の質問は、ランダムに答えた場合よりも正答率が低くなる。つまり、多くの人が「知らない」のではなく「誤解をしている」のだ。
人は、実際よりもドラマチックな見方で世界を捉えがちなので、「ファクト」を重視して世界を正しく見る必要がある、というのが本書の意図だ。
第1章 分断本能
人は、「金持ち」と「貧乏人」、「途上国」と「先進国」のように、何かをふたつに分断して捉えてしまう本能がある。
実は今は、「途上国」と「先進国」の分類は正確とは言えないので、著者は、1日あたりの所得ごとにレベル分けして、
- レベル1(2ドル以下)
- レベル2(8ドル以下)
- レベル3(32ドル以下)
- レベル4(32ドルより上)
と分類したほうがいいのではないかと提唱している。
そのように分けると、
- レベル1は10億人
- レベル2は30億人
- レベル3は20億人
- レベル4は10億人
であり、むしろレベル2から3の「中所得」の人口が最も多い。
人は「分断」を見出したがるが、平均値や分布を見ると、それほどはっきり分断されていなかったり、中間がボリュームゾーンだったりする。
第2章 ネガティブ本能
人は、物事のポジティブな面より、「ネガティブ」な面に着目しやすい。
メディアが悪いことを積極的に報告したがる一方で、良い出来事や、ゆっくりとした進捗はニュースになりにくい。しかし、極度の貧困の数や、平均寿命などは、データを見るかぎり着実に改善されている。
「悪い」と「良くなっている」は両立する。「悪い」は現在の状態のことで、「良くなっている」は変化の方向なのだが、「悪い」を見すぎてしまうと、「良くなっている」が見えなくなってしまう。
ネガティブなものに注目してしまいやすい本能を意識して、それが過去から現在までどのように変化しているのかを見る必要がある。
第3章 直線本能
著者によると、人間には「グラフは真っ直ぐに伸びていくだろう」と考えてしまう「直線本能」があるらしい。
何でもかんでも直線が伸びていくイメージで捉えると、世界人口がこのまま増え続けて大変なことになってしまう、と考えてしまう。
だが、世界中で生まれる子供の数は、すでにピークに達して横ばいになっている。これからも人口は増え続けるが、それはすでに生まれた人の平均寿命が伸びているからであって、世界人口は100億人から120億人の間で頭打ちになるだろうと予測されている。
人口は、直線的に増え続けるのではなく、ピークを迎えたあとは下がっていくのだ。グラフには「直線」以外の様々な形があり得るので、「直線本能」を意識して、「現状の傾向がずっと続いていく」という見解には注意する必要がある。
第4章 恐怖本能
人間には、実際のリスクはそれほど高くなくとも、ドラマチックなものの危険性を過大評価してしまう「恐怖本能」がある。
飛行機事故、災害、戦争や紛争は、恐怖を煽りがちだが、これらの要因で亡くなる人は減り続けているし、数値で見るとイメージほどの危険性はほぼない。
レベル4の国でテロが起これば、メディアは大騒ぎするし、世界にテロが溢れているように報道するが、レベル4の国におけるテロの犠牲者は、21世紀に入ってから減り続けている。
「恐ろしさ」と「リスク」には、大勢が思うほどの相関関係がなく、実際のリスクは「危険度」と「頻度」の掛け算で決まる。恐怖はパニックを引き起こし、物事を正しく把握しにくくさせるので、不必要に怖がりすぎるのではなく、本当にリスクの高いものに焦点を当てるべきと言える。
第5章 過大視本能
人は、特定の数字だけに着目して、それがとても重要な問題であるかのように捉えてしまうが、他の数字と比較したり、割り算をしたりすることによって、その数字の意味がわかることがある。
例えば、2017年の世界の0歳児死亡率は、合計で420万人だった。420万人もの赤ちゃんが亡くなっていると考えると、とんでもないことが起こっているように感じるかもしれないが、1950年のデータと比べると、死亡率は15%から3%まで下がっている。
過去との比較や、分母や割合を見なければ、特定の数値から問題を「過大視」してしまうことになりやすい。
先進国は、中国やインドの二酸化炭素排出量を問題にしがちだが、人口が大きければ排出量も大きくなるのは当然であって、「ひとりあたりの二酸化炭素排出量」を見て論じなければ公平とは言えない。
「過大視本能」によって、特定の数字だけに着目しすぎて、大きさの違うグループを同じものとして比較することは避けなければならない。
第6章 パターン化本能
人間には「パターン化本能」があり、著者によると、その本能が自分以外をアホだと決めつけてしまう間違いを生み出す。
例えば、チェニジアの町などで、家を途中まで組み立てて放置しておく光景が見られる。
レベル4の高所得な国の人からすると、計画にとんでもない問題があったか、建設業者に逃げられたのだろうと思うかもしれない。しかし、レベル2、レベル3の国では当然のように見られる光景らしい。レンガを買って家を少しずつ建てていくと、現金のように盗まれにくいし、インフレで価値が下がりにくいので、合理的なのだ。
世の中には様々な合理性があり、自分の知っているパターンがすべてに当てはまると思ってはいけない。
パターン化自体は止められないし、止めようとすべきでもないが、それが間違いを生み出しやすいことは肝に銘じなければならない。
第7章 宿命本能
人間は「すべてはあらかじめ決まっている」と思い込む「宿命本能」を持っている。
アフリカ諸国は、データを見るかぎり確実な発展を遂げているが、著者によると、人間の宿命本能のせいで、アフリカが西洋に追いつけるということを、人はなかなか受け入れられないらしい。
また、人々は、避妊を禁じる宗教を信仰している女性が多い地域は子供の数が多いと思い込んでしまいがちだが、実は女性ひとりあたりの子供の数と関係があるのは「所得」であり、宗教と関係なく、所得が多いほど子供が少なくなる。
価値観や文化はなかなか変わらないものだと思われているが、実は簡単に変わってしまう。毎年の少しずつの変化も、数十年では大きな変化になる。
宿命本能にとらわれず、文化が変わっていくことを認識し、知識をアップデートする必要がある。
第8章 単純化本能
著者によると、人間には、世の中のさまざまな問題にひとつの原因とひとつの解答を当てはめてしまう「単純化本能」があるらしい。
気候変動による生態系の変化、天然資源の減少などは、深刻な問題だが、だからこそ、正確なデータをもとに議論する必要がある。「絶滅危惧種が増えている」という単純化ではなく、トラ、ジャイアントパンダ、クロサイなど、数が増えている野生動物がいることにも着目すべきだ。
多くの人が、「民主主義」こそが平和や社会の進歩や健康の改善をもたらすと考えているが、現実はそれほど単純ではない。実は、世界大戦後において、急激な経済発展と社会的進歩を遂げたほとんどの国は、民主主義国家ではない。
世の中は思っているほど単純ではないことが多いので、単純化本能を意識して、自分の考えを検証する必要がある。
第9章 犯人捜し本能
人間には「犯人捜し本能」があり、誰かを見せしめにしてその責任を負わせたがる。
しかし、何らかの問題が起こっているときに、責めるべき人やグループを捜すべきではない。誰かが悪意を持っているわけではなくとも、悪い事態は起こりうる。
問題を解決するためには、その悪い状況を生み出しているシステムを理解することに力を注ぐべきだ。
逆に、何らかの改善は、ひとりのヒーローによってもたらされるわけではない。物事がうまくいく背景には、社会基盤とテクノロジーがあり、大勢の人の協力こそが必要だ。
第10章 焦り本能
人間には、「いますぐに決めなければならない」という「焦り本能」がある。
問題解決を焦るがゆえに、過激な方法を採用しがちだが、多くの問題は、小さな一歩を積み重ねることによって解決する。
地球温暖化に強い関心を持つ活動家は、問題の深刻さを誇張したり、過激な主張をしがちだ。しかし、そのようなやり方で、人々の心が地球温暖化から離れてしまうと、建設的な協力が不可能になり、かえって問題解決から遠ざかってしまう。
焦りにとらわれず、冷静にデータを見ながら、理に適った行動をとる必要がある。
以上が、あくまで非常に簡易的なものになったが、『FACTFULNESS』の要約と解説になる。
『FACTFULNESS』について、「面白いと感じたデータまとめ」や「批判記事」も書いているので、よければ以下も参考にしてみてほしい。


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