ハンス・ロスリング『FACTFULNESS』の面白いと思った箇所まとめ

話題のベストセラーであるハンス・ロスリング『FACTFULNESS』の、個人的に特に面白いと感じた箇所を、引用つきでまとめてみたいと思う。

目次に沿った形の要約ではなく、あくまで自分が面白いと感じたところの「まとめ」だ。

なお、前回で、章立てに沿った「要約と解説」も書いているので、先にそちらを読んでもらってもよい。

『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』の要約と解説

乳幼児死亡率は社会を測る温度計

著者ハンス・ロスリングは、医者であり、公衆衛生の専門家だ。『FACTFULNESS』は、色々と批判するところの多い書籍だと思うが、著者の専門的な部分に関しては、流石の知見がある。

『FACTFULNESS』最初のシーンは、著者が教授として学生に講義しているところから始まる。著者は、文化や宗教といった定性的なものではなく、「乳幼児死亡率」という定量的なものから、社会の健康状態を読み解こうとする。

わたしはペンを置き、学生に語りかける。「なぜ、わたしが乳幼児死亡率にこだわるかわかるかな? もちろん子供は大事だが、話はそれだけではないんだ。乳幼児死亡率は、社会全体の体温を計ってくれる巨大な体温計みたいなものだ。子供はか弱い。だから、命を落とす原因なんていくらでもある。マレーシアで、1000人の子供のうち14人だけ死ぬということは、残りの986人は生き延びるということ。その子たちの親、そして社会が、病原菌、飢餓、暴力などから、子供たちの命を守ったからだ。この14という数字を見るだけでも、マレーシアのほとんどの家庭には十分な食料があり、水道水に下水が混ざることもなく、誰もが基本的な教育を受けることができ、母親も読み書きができることがわかる乳幼児死亡率からは、子供の健康状態だけでなく、社会全体の健康状態もわかるんだ」

『FACTFULNESS』第1章「分断本能」より引用

そして、近年のデータを見る限り、「乳幼児死亡率が上がった国はない」ようだ。それが、「世界は基本的に良くなっている」という著者の主張の根拠になっている。

 

現時点ですでに、生まれる子供の数はほぼ横ばい

現在、世界人口は急速に増えているので、グラフを見ると、恐ろしく感じる人も多いかもしれない。

 

しかし、専門家は、世界人口のピークは100億から120億で、その後は緩やかに減っていくと予想している。

 

実は、「生まれる子供の数」は、もう下げ止まっているのだ。

女性ひとりあたりの子供の数の平均は、現在2.5人まで下がっていて、15歳未満の人口自体は、すでに横ばいの状態だ。

 

これからも人口は増えていくのだが、その理由は、すでに生まれた人が高齢者になるまで健康に生き続けると予測されているからで、15歳以下に限っていえば、もはやピークを過ぎている。

よって、世界人口は100億から120億人がピークで、それ以上は増えないだろうとされているのだ。

 

人口動態はかなり正確に予測できる

気候変動、国の経済成長率や失業率などは、驚くほど予測が難しいのに対して、「人口」はかなり正確に予測できるらしい。

未来予測といっても、比較的簡単に予測できることもあれば、そうでないこともある。1週間より先の天気予報は、当たったためしがない。国の経済成長と失業率も、驚くほど予測が難しい。それは複雑だからだ。そこには考慮すべき要因が多く。変化の速度も速い。1週間先には温度も風速も湿度もそれ以外の要因も大きく変わっている。1ヶ月先には何億、何兆ドルもの資金が何億回とやりとりされている。

それとは対照的に、人口動態は何十年も先までかなり正確に予測できる。人の生と死の仕組みは極めて単純だからだ。子供は生まれて育ち、大人になって子供を産み、やがて死んでいく。ひとサイクルはおよそ70年。

『FACTFULNESS』第10章「焦り本能」より引用

このような視点は面白い。人間は、急にたくさん生まれたり死んだりすることがほとんどないから、人口動態は予想しやすい種類のデータなのだ。

とはいえ、「出生率」は様々な要因が絡む予想しにくいもののように思えるが、著者によると、「所得」と大きな関連があるようだ。

 

文化や宗教ではなく「所得」が子供の数を左右する。

子供の数を左右するのは、文化や宗教ではなく、「所得」だと著者は主張し、データを提示している。

いま、イスラム教徒の女性ひとりあたりの子供の数は平均で3.1人。キリスト教徒は2.7人だ。2大宗教の出生率に、大きな違いはない。
大陸や文化や宗教が違っても、カップルは寝室で同じことをささやき合っている。2人で将来こんな家庭をつくっていければ幸せだ、と。国が変わっても、それは変わらない。アメリカでも、イランでも、メキシコでも、マレーシアでも、ブラジルでも、イタリアでも、中国でも、インドネシアでも、インドでも、コロンビアでも、バングラデシュでも、南アフリカでも、リビアでも、人々の望みは同じなのだ。

『FACTFULNESS』第7章「宿命本能」より引用

と著者は述べている。このような考え方が本当に正しいのかどうかはさておき、重要な視点ではあると思う。

とはいえ、本書では、「大陸や文化や宗教」と「子供の数」に関係がないことが特に検証されているわけではない。ただ少なくとも、「所得」と「子供の数」に関係があることは示されている。

 

教育期間の男女差はすでにほとんどない

「教育を受けることが許されていない女性がたくさんいる」というイメージは、至るところで拡散されるが、実は現時点ですでに、男女の教育年数はほぼ変わらない。レベル4(高所得)はもちろん、レベル2やレベル3(中所得)の国でも、すでに教育は男女平等で、むしろ女子のほうが高いくらいなのだ。

わたしは女性の権利を熱烈に支援している。このあいだ、女性の権利についての会議に招かれて公演した。ストックホルムで行われたこの会議には、292人の勇敢な若いフェミニストが世界中から集まった。みな、女性がもっといい教育を受けられるように考える人たちばかりだ。それなのに、世界の30歳女性が受けている学校教育の期間は、同じ歳の男性より1年短いだけだと知っていたのは、わずか8%だった。

女子の教育がいまのままでいいなどと言うつもりはまったくない。レベル1の国、特にいくつかの国では、小学校に通えない女の子は多いし、中等教育と高等教育になると女子には手が届かない。とはいえ、60億人が生活するレベル2と3と4の国では、女子の就学率は男子並みか、男子より高い。

『FACTFULNESS』第8章「単純化本能」より引用

女子は教育に関する不平等を被っているイメージが強い一方で、実際のところ、教育に関してはかなりの男女平等が進んでいるようだ。

 

民主主義が絶対ではない

先進国の多くが、民主主義(政治活動や言論の自由)を重要なものだと思っているが、民主主義がなければ経済発展ができないというわけではない。

炎上覚悟で言わせてもらおう。わたしはもちろん、国家を運営する手法として自由な民主主義がいちばん優れていると心から信じている。でもそう信じるあまり、民主主義が、平和や社会の進歩や健康の改善や経済成長といった、いろいろないいことをもたらすと思い込んでしまう人は多い。民主主義でなければ、そういった恩恵を受けられないと勘違いしてしまう人もいる。でも、聞きたくないかもしれないが、ひとこと言わせてほしい。証拠を見れば、このような考え方は間違っている。
急激な経済発展と社会的進歩を遂げた国のほとんどは、民主主義ではない。韓国は(産油国以外で)世界のどの国よりも急速にレベル1からレベル3に進歩したが、ずっと軍の政治独裁が続いていた。2012年から2016年のあいだに経済が急拡大した10カ国のうち、9カ国は民主主義のレベルがかなり低い国だ。
民主主義でなければ経済は成長しないし国民の健康も向上しないという説は、現実とはかけ離れている。民主主義を目指すのは構わない。だが、ほかのさまざまな目標を達成するのに、民主主義が最もよい手段だとは言えない。

『FACTFULNESS』第8章「単純化本能」より引用

「国民の健康」や「所得」という物質的なファクターを見る限りは、民主主義だからそれが実現できるというわけではない。

これはなかなかに危険な事実に思える。ただ、著者はあくまでデータを示すのみで、これについては何らかの解釈や価値判断を下しているわけではない。

 

面白いデータもあるが、眉唾で読んだほうがいい

『FACTFULNESS』には、興味深いデータがいくつか出てきて、その点において、読む価値がない本とは言えない。

だが、出生率や人口や所得という、あまり解釈にぶれが生じないデータを参考にしている部分は有用でも、それ以外の「解釈」や「価値判断」に関しては、かなり酷い内容が多いので、注意が必要だ。

著者は、良くも悪くも、データをしっかり見る意識のある人だ。一方で、『FACTFULNESS』においては、データから「見える」以上のことを不用意に「言って」しまっているので、その部分は眉唾で読んだほうがいい。

 

『FACTFULNESS』の批判記事も書いているので、興味があれば以下を参考にしてもらいたい。

ベストセラー『FACTFULNESS』を批判する!本書を高く評価すべきでない理由【書評・レビュー】

 

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