『会計の世界史』の面白いところ&重要箇所まとめ【書評・レビュー】

田中靖浩『会計の世界史』は、歴史上の様々な人物や出来事と結びつけながら、会計の本質的な知識を学ぶ「会計エンターテイメント」本だ。

有用かつ読んでいて面白い内容なので、会計に興味のある人、会計を勉強したいと考えている人は、ぜひ実際に手をとって読んでみてほしい。

当サイトでは、以前に『会計の世界史』についての詳しい「要約と解説」を書いている。そちらを読みたい人は以下の記事を参考にして欲しい。

田中靖浩『会計の世界史』の要約と解説【1/3】第1部 簿記と会社の誕生 田中靖浩『会計の世界史』の要約と解説【2/3】第2部 財務会計の歴史 田中靖浩『会計の世界史』の要約と解説【3/3】第3部 会計管理とファイナンス

この記事は、章立てに沿った要約ではなく、『会計の世界史』の面白いところ、重要だと感じた箇所を、手短にまとめて紹介している。

ざっくりと要点を把握したい人は、まずこの記事から目を通してもらいたい。

関わる人が増えるほど、会計の重要性が増していく

会計の初歩は、「取引の記録を残しておくこと」だ。商売人でなくとも家計簿をつける人は多いし、記録をつけておくと便利であることは言うまでもないだろう。

ただ、「会計」には、関わる人が増えるほど重要性が増していくという特徴がある。

個人や少数で事業をするなら、必ずしも「会計」は必要ない。だが、大勢で事業をするなら会計は「ほぼ必須」になるし、外部から資金調達した場合は会計が「義務」になる。

15世紀のイタリアでは、家族や親族と商売をするという旧来的なやり方から離れ、もともとは他人だった人たちと商売上のパートナーシップを組んで、何らかの事業を始めるケースが増えていった。

関わる人が増えると、トラブルも増えやすくなる。何の記録も残さずにいると、儲けの分配を巡って揉めることになってしまう。

「会計記録」を正しい手順でしっかり残しておくことは、「対外的な証拠」の役割を果たし、トラブルを減らしたり、揉めた場合の問題解決に役立つ。

関わる人が増えるほど、「会計(記録を残しておくこと)」がなくてはならないものになっていく。

特に、自分たちを超えて、他からその事業に投資してもらった場合は、「会計記録」を報告しなければならない義務を負う。出資者に対して、「こういう活動をやってこういう結果が出ました」と報告するのが「会計」なのだ。

英語では「会計」のことを「accounting」と言う。動詞の「account」は、「カウントする、説明する、報告する」などの意味を持っている。日本では「説明責任(アカウンタビリティ)」という横文字が使われることもあるが、これは利害関係者に対する説明義務のことを言う。

「数を数えて説明する」のが「会計」のベースにあり、それが正当性や信頼性を担保するので、人々が大きな規模で協力し合うようになるほど「会計」を無視することができなくなっていく。

 

信頼があるからこそ、大規模な投資と調達が可能になる

『会計の世界史』では、世界初の株式会社である「オランダ東インド会社」が扱われている。今では、上場企業が株式を発行して、一般人が株を売買するのが当たり前だが、当時は「株式で資金調達」というのは画期的なことだった。

初めての「株式」が、利益が得られるかどうかわからない新しい試みだったにもかかわらず、オランダ東インド会社の株には熱狂的な人気があった。

  • 投資先がどれだけ失敗しても、株の価値がゼロになる以上の負担を要求されない「有限責任制度」
  • 儲けの相当分が出資比率に応じて分配される「インカム・ゲイン」
  • 証券取引所で株式を売買して利益を得ることのできる「キャピタル・ゲイン」
  • 企業は株主に対する「会計報告」が義務付けられる

などのルールにより、多くの人が、安心と期待を持って株を買うことができた。

ただ、オランダ東インド会社の時点では、まだまだ会計のルール整備は不十分だった。例えば、「監査」などが行われていたわけではなく、適切な会計報告がされずに、株主の怒りを買っていたようだ。

その後も証券市場は発展し続けたが、インサイダー取引や株式操縦などの現在なら犯罪とされる行為も、最初からそれを取り締まれる法律があったわけではなかった。

証券市場は、デタラメや不正が横行する混沌とした状態が続いていて、大暴落などの問題を経ながら、「証券法」や「証券取引法」などのルールが整備されていった。

「証券取引のルール整備」の結果、「株式を発行した(上場した)企業」は、「すべての人に正確な決算書を公開する」義務を負うことになった。

「株式市場」は、初期段階から今ほどキッチリしていたわけではなかったが、様々な問題に対処する課程でルールが整備されていったのだ。そのため現在は、かなり厳しいチェックを経なければ企業は上場することができないし、上場した後も、会計士による「監査」を受けて正確な「決算書」を作り、それを誰もが見れるように公開する必要がある。

信頼性の高い証券取引のルールが整備されているからこそ、企業は市場から多くの資金を調達することができるし、市民は安心して株を売買することができる。

大規模な投資と調達を機能させるための「信頼性」において、「会計」は大きな役割を果たしている。

 

「収支」が概念化して「利益」になる

投資を受けた企業は、「決算(企業活動の成果)」を報告し、説明する義務を負う。

だが、「収支(収入と支出)」を単純に計算するだけでは、色々と不都合が出ることが多い。その問題に対応するため、「利益」という概念が必要とされた。

「収入 − 支出」から算出する「収支」は、単純にキャッシュの出入りのことを言うのに対して、「利益 − 損失」から算出する「利益」は、会計上の概念だ。

例えば、「鉄道会社」は、路線や電車などの「固定資産に大きな投資」をして、それを運用して稼ぎを得るビジネスモデルだ。

鉄道会社も、「期(シーズン)」ごとに決算を報告する義務がある。そのとき、事業の性質上どうしても、投資をした期には「支出」が多くなり、投資をしない期には「収入」が多くなる。このように、単なる金の出入りである「収支」の決算を見ても、会社の調子や経営者の業績を正確に評価することができない。

鉄道会社の巨大な固定資産の問題を解決するために、投資のための大きな支出を数期に分けて費用計上する「減価償却」が考え出された。

「減価償却」の発明によって、固定資産への巨額な設備投資をした年でも、「会計上の儲け」である「利益」を出せるようになった。

単純な金の出入りである「収支」ではなく、会計上の操作を伴った「利益」を出すことで、より正確に「決算」を伝えることができるようになった。このような「収支」から「利益」への変化を、「現金主義会計から発生主義会計への移行」と言う。

「利益」は、会計上の操作によって導き出される一種のフィクションだ。だから、黒字倒産(「利益」は出ているが、キャッシュが足りないので倒産)のような、「収支」で考えてもわからない現象が起こる。

「発生主義会計」により、会計は、より複雑で直感的には理解しにくいものになっていった。税理士や会計士を目指す人は、そのような複雑な会計を学ばなければならないが、それは、「より正確に現状を説明する」という必要に迫られて生まれたものなのだ。

 

義務ではない、自分たちのための会計

「会計」は、投資家から資金を調達した企業が課せられる「義務」でもあるが、それだけではない。義務ではなく、「自分たちの企業活動に活かすための会計」もある。

そのような視点で「会計」をふたつに分けると、

  • 外部向けの、義務として課せられる会計は「財務会計」
  • 内部向けの、自分たちの企業経営に活かすための会計は「管理会計」

となる。

内部向けの「管理会計」にあたるのは、

  • 製品1つあたりを作るのに必要なコストを割り出す「原価計算」
  • 各パートごとのコストとリターンを割り出す「セグメント分析」

などの会計手法であり、これらは義務ではなく、経営判断のための武器として使う会計だ。

外部向けの「財務会計」は、キッチリとした共通ルールに則って、専門家のチェック(監査)を受け、なるべく正確で厳密なものを公開する必要がある。

内部向けの「管理会計」は、問題を可視化して経営に活かすためのもので、義務ではないし、「絶対にこうしなさい」というルールがあるわけでもない。「管理会計」の技術は、その方法が「秘伝」として企業の外に出されないことも多かった。あくまで自分たちの経営に活かすためのツールだからだ。

数字の正確さなどの決まりを守ることではなく、「問題を上手く可視化して経営に活かせるかどうか?」が、「管理会計」においては重要になる。

「会計」には、堅苦しいルールに縛られた「財務会計」だけでなく、創造力を発揮する余地が大いにある「管理会計」という分野もあるのだ。

 

「原価(過去)」から「時価(現在)」へ、そして「未来」へ

企業を評価しようとするときに、「原価主義」か「時価主義」かは、長年議論が分かれてきたテーマだった。

  • 「原価主義」は、「いくらで買ったか?」という「金→物」を重視する見方
  • 「時価主義」は、「いくらで売れるのか?」という「物→金」を重視する見方

「原価」であれば話はわかりやすい。もともと「会計」は、「過去のお金の動き(何を買って何を売ったか?)」を記録するものであり、「原価」のほうが会計処理は簡単で、客観的だ。

一方で、「時価」は、「もし仮に、いま持っているものを全部売ることができたとしたら?」という「仮定」に基づいた評価なだけに、客観性に乏しく、敬遠されてきた歴史がある。

しかし、国際的な会計基準では、「原価」よりも「時価」で企業が評価されるようになっていった。

昔と今とで物の値段が代わり、昔安かったものが今は高かったり、昔高く買ったものが今は価値がなかったりすることは当然ある。そのため、企業の活動が長期的なものになると、買ったときの値段で計算する「原価」による評価の問題が目立ってきて、「時価」が好まれるようになっていく。

そして、M&Aなど、企業の買収が盛んになるにつれて、より熱心に「企業価値」を評価しようとする機運が高まり、

「原価(過去)」→「時価(現在)」→「将来キャッシュフロー(未来)」

と、会計は「未来のこと」を意識するようになっていく。

「企業価値」をより本質的に判断しようとする場合、「いま売ったらいくらか?」ではなく、「将来この会社はどれくらいのキャッシュフローを生みそうか?」という「未来の」視点が必要になる。

そのため、「企業の価値を説明する」技術としての「会計」は、「未来」を射程に入れたものになっていく。

「過去」のほうが客観性が担保されていることは言うまでもないが、「会計」はそこから抜け出して、「未来」を捉えようと進歩を続けているのだ。

「会計」は、単なる集計や計算を超えて、幅広い知識と柔軟な創造性を必要とする分野になった。企業買収や企業評価に関する大掛かりな仕事に携わる上で、会計的な知識は大きな武器になり得る。

 

 

以上が、『会計の世界史』の面白いと思ったところまとめになる。

 

本書の内容から少し飛躍した記述になってしまったところもあるかもしれない。正確で詳しい内容を知りたいのならば、実際に本文を読んでもらいたい。

田中靖浩『会計の世界史』の要約と解説【1/3】第1部 簿記と会社の誕生 田中靖浩『会計の世界史』の要約と解説【2/3】第2部 財務会計の歴史 田中靖浩『会計の世界史』の要約と解説【3/3】第3部 会計管理とファイナンス

 

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