企業活動、経済活動に関わる上で、「会計」に関する知見を求められることはよくある。
しかし、社会人でも、「会計」というものに対して何となくのぼんやりしたイメージはあっても、「そもそも会計って何?」「なぜ会計が必要なの?」という問いに対して、うまく答えられない人も多いかもしれない。
あるいは、面倒な数字の計算や、厄介な決まりごとなどが頭に浮かんで、「会計」に苦手意識を持っている人も少なくないだろう。
ここでは、なぜ企業が「会計」をしなければならないのかを、初心者にもわかりやすく、ややこしい数字や計算式などを出さずに解説したい。
「会計」とは何か?
「会計」とは何か、ものすごくざっくり言うと、「何をやったかメモしておくこと」だ。
商売をするとき
- ○○さんに、○○を、○○円で売った
- ○○さんから、○○を、○○円で買った
などのメモを紙に残しておけば、あとから見返すことができる。
やり取りをメモして、あとから見れるようにしておくことが、初歩的な「会計」と言える。
会社や商売のレベルでなくとも、家庭で行う「家計簿」だって、「会計」なのだ。
会計の基本は、「記録しておく」というごく単純なものだ。
その「記憶しておき方」が複雑になったのが、現代の「会計」なのだ。
何のために「会計」が必要なのか?
「なぜ会計が必要なのか?」については、2つのパターンがある。
「会計」は、おおまかに、
- 他人のための会計(財務会計)
- 自分のための会計(管理会計)
の2パターンを考える必要がある。
他人のための会計は「財務会計」、自分のための会計は「管理会計」と呼ばれることが多い。
「財務会計」は、上場企業に必ず課せられる「義務」であり、ちゃんとやらなければ法律違反だ。
一方で、自分(自社)のための「管理会計」は、義務ではなく、自社のパフォーマンスを向上させるために行うものであり、決められたルールに従う必要がないので自由度が高い。
関わる人が多くなるほど「会計」が必要になる
関わる人が増えるほど、商売の記録をしっかり残しておくことが重要になる。
商人がひとつの店で、自分の手金だけで商売をするのであれば、詳しい帳簿を書く必要はない。しかし、事業が大きくなり、関係者が増えるにしたがって、ちゃんと記録を残しておくことの重要性が高まる。
- 仲間割れが起こったり揉めたりしたときに、正確な手順で記録をつけておくと「証拠」になる
- 「どれだけ儲かっているか」を明らかにすることで、儲けの正確な分配ができるようになる
などのメリットが、「会計」にはあった。
「ちゃんと記録をつけておくこと」は、面倒で手間のかかる作業だが、その重要性は、事業に関わる人が増えるほどに高まるのだ。
大きな会社になるほど、「会計」が「なくてはならないもの」になっていく。
出資者に対して「説明する」のが「会計(accounting)」
「会計」は、揉めたりしたときの「証拠」になるから、ちゃんとやっていたほうが望ましい。それでも、仲間内で資本金を用意できるのであれば、まだ会計は「義務」ではない。
一方で、銀行や投資家から出資や融資を受けるなど、「外部からお金を借りた」場合、「会計」は、「絶対に果たさなければならない義務」になる。
会計は英語で「accounting」というが、動詞の「account」は「カウントする、説明する、報告する」などの意味がある。ようは、お金を借りている人に対して、「account for(説明する)」というのが、「会計」の意味だ。
「自分たち」以外の外部から資金を調達すると、出資してくれた人に対して「商業活動の記録をつけて、それを報告する(説明する)」のが必須になる。
特に、「株式」を発行することで資金調達している「上場企業」は、株式を購入する可能性のある人(事実上すべての人)に対して、「決算書」を公開する義務を負う。
「財務会計」とは、上場企業が万人への「説明」責任を果たすために行う「義務としての会計」のことを言う。
「財務会計」は上場企業に課せられた義務
上場をしていない企業は、見知らぬ投資家から金を預かっているわけではないので、「決算書」を公開する義務はない。
一方で、「上場する(自社の株式を公開する)」ということは、誰もがその企業の株を買えるということであり、企業側からすると「見ず知らずの人に出資してもらっている状況」だ。そのため、上場企業は「決算書」を誰もが見れるようにするのが義務になる。
実際に我々は、検索をすれば、上場企業の「決算書」をいつでも見ることができる。
「決算書」は、適当に作ることが許されず、それが正しいやり方で作成されているかという「監査(監督と検査)」を受けなければならない。
日本には「公認会計士」という資格があるが、企業の「監査」は、公認会計士の独占業務だ。(参考:公認会計士はどんな職業?企業の監査って何?わかりやすく解説)
企業が上場をすると、巨額の株式公開益が手に入るし、その後の資金調達もしやすくなる。一方で、株式を上場した企業が金を持ち逃げしたり粉飾したりすれば、その会社の問題だけに収まらず、株式市場全体の信頼性が損なわれて、他の会社の資金調達が難しくなってしまう。だからこそ、上場する前に会社は厳しい審査を受けるし、上場した後も「決算書」を公開し続けなければならない。
企業が正しく会計を行っているかは、株式市場の信頼性を左右する問題なので、厳しくチェックされるのが前提なのだ。
上場企業の「財務会計」は、決められたルールに則ってしっかりと行われなければならないし、公認会計士の監査を受けなければならない。
「管理会計」は自由度が高い
会計は、たとえ「義務」でなくとも、やっておいたほうがいい。
当然だが、記録をしっかりつけておけば、どの商品が儲かっていて、どの商品が儲かっていないかなど、自分たちの商売を数字で把握することができる。
業務が複雑になるにつれて、単に記録をつけておくだけでなく、様々な会計のテクニックが開発された。そのような、自分の経営に活かすための会計を「管理会計」と言う。
例えば、「製品1個つくるのにどれくらいのコストがかかるのか?」を割り出す「原価計算」は、その製品をどれだけ作ればいいのか、いくらで売れば採算がとれるのかといった、経営判断上の重要な情報を与えてくれる。
「セグメント分析」という会計手法は、製品、事業、地域ごとの業績を評価するのに役立つ。
企業の活動が広範で複雑なものになるほど、「管理会計」の技術が重要なものになってくる。
実は「管理会計」は、義務である「財務会計」と違って、「こうしなければならない」というものはない。自分たちのとって有用であれば何でもアリなのが「管理会計」だ。厳密な数字よりも、問題を把握しやすくする視点や工夫が求められる。
「財務会計」の場合、厳密なルールと監査のもとに決算書を作らなければならないし、過剰な作為を入れ込むことは、下手すると犯罪(粉飾)に成りかねない。
一方で、「管理会計」は、明確な正解や厳密なルールがあるわけではなく、多くの人が「会計」に対して持っている堅苦しいイメージとは違って、創意工夫を発揮する余地のある自由度の高いものなのだ。
まとめ:会計の役割は意外に幅広い
- 「財務会計」は、上場企業に課せられる義務で、公認会計士の監査を受けながら、ルールに基づいて客観的に作成する必要がある
- 「管理会計」は、自社の経営に活かすための会計で、厳密さよりも、問題の発見や解決にアプローチする創意工夫が求められる
「会計」と聞くと、電卓に数字を打ち続ける退屈な作業を思い浮かべる人が多いかもしれないが、「会計」は非常に奥が深く、幅広い知見や、クリエイティブな発想を求められる領域でもある。会計に関する知見は、ビジネスにおける大きな武器にもなり得るので、会計は学んでおいて損のない分野だ。
以上、「会計とはどういうものか?」をざっくりと説明した。
当記事を書くにあたって、田中靖浩『会計の世界史』を参考にしている。
『会計の世界史』については、「要約と解説」記事や「まとめ」記事を書いているので、よければ参考にしていってほしい。




『会計の世界史』は、読み物として純粋に面白く、歴史的経緯を踏まえた本質的な会計知識を得られる本なので、興味がある人は本文を読んでみることをおすすめする。
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