「おすすめの本」を「要約と解説」つきで紹介していく。
書籍の紹介はアフィリエイト収入を得やすいので、世の中には、「本当に読んだのか?」と言いたくなるような文字数だけの適当なレビューが溢れかえっている。読みたい本を探す読書好きの中には、収益目的の記事に辟易した経験のある方も少なくないだろう。
一方、この記事では、サイト内で「要約と解説」を試みた書籍のみを紹介する。
本の紹介と一緒に、「要約と解説」へのサイト内リンクを貼っている。
仕事に直接役立つというよりは、本質的な教養を身につけることのできる、中身のある良書のみを扱っている。
成功したい社会人やビジネスマンも、表面的な自己啓発書より、この記事で紹介されている書籍の内容をちゃんと踏まえたほうが、成果が出る可能性は上がるだろう。普段からよく本を読む人にとってもそれなりに有用なレビューになっていると思う。
ではさっそく紹介に入る。目次をつけるので、気になった書籍から見ていってほしい。
目次
ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』
ジャンル :歴史、人類
読みやすさ :★★★
おすすめ度 :★★★★★
世界的なベストセラーなので、名前を聞いたことのある人は多いだろう。
近年は、「進化人類学」のような言葉を聞く機会が増えた。
現在の人間の生物学的な特徴のほとんどは「狩猟採集」の時代に形作られ、農耕が始まってからの人類はあまりに早いスピードで変化してしてしまったので、人間の生物学的な特徴と、現代に求められる行動には齟齬がある。
そのような、「人類の生物学的特徴と近代的価値観との食い違い」への理解を深めると、ビジネスや恋愛や勉強など様々な場面に応用(悪用)できるので、「進化人類学」への注目が高まっているのだろう。
以上のような観点から、『サピエンス全史』は、多面的かつ有用な視点を得られる本であることは間違いない。
教養を身につけるといった点でも、仕事などに応用できるといった点でも、ベストセラーとしての期待を裏切らない良書であるように思う。
『サピエンス全史』の紹介や要約などでは、「人類の本質は虚構(フィクション)である」という解説が多いが、そんな「それはそうだろう」というようなことを延々と述べた退屈な本ではない。優れた視点がいくつもあり、挿まれる小話が面白いし、文章にもユーモアがあり、時間をかけてでも本文を読む価値がある。
単なる「上手なまとめ」ではなく、著者が提示する視点が優れている。
比較的読みやすい本だが、内容が長大なだけに、テーマをうまく読み解くのは難しいかもしれない。
読んだことがあるけどあまりピンとこなかったという方は、以下の「要約と解説」が参考になるだろう。


エリック・バーカー『残酷すぎる成功法則』
ジャンル :ライフハック
読みやすさ:★★★★
おすすめ度:★★★
「エビデンスのある成功法則」を掲げている本。
近年の心理学や人間科学の研究では、「成功法則」をテーマにしたものが多い。
「どのような要素が人間を成功に導くのか?」を学術的に研究しようとする試みが進んでいて、そのような研究は注目を浴びやすいし、資金を得られやすい。
本書は、「成功法則」関連の研究の要約をまとめて本にしたような内容だ。単なる研究結果の羅列ではなく、様々な興味深いエピソードとうまく結び付けられながら語られるので、面白く読み進めることができる。
日本語タイトルの『残酷すぎる成功法則』のイメージを持って読むと、タイトルと内容との乖離に拍子抜けするかもしれない。
原題は「Barking Up the Wrong Tree(見当違いの木の上に吠えている)」で、「多くの人は根拠のない成功法則に群がっているけど、ここではエビデンスのあるものだけを出しているよ」という感じのタイトルだ。
直接的な成功法を提示するわけではなく、対立する結果が出た研究内容を比較検討しながら話が進められていく。
「学術的な慎重さ」と「トピックの面白さ」の両方に配慮された内容だ。
「モチベーションが上がる自己啓発本!」を期待して読むとミスマッチかもしれないが、興味深く読み進められて、実践的な成功法則を学べる本になっている。
自己啓発本をたくさん買っているけど人生がうまく行かない、という方は本書を手にとってみるといいかもしれない。

なお、当サイトでは、『残酷すぎる成功法則』にやや批判的なレビューも書いているので、気になる方は以下の記事も参考にしてほしい。

田中靖浩『会計の世界史』
ジャンル :会計、歴史
読みやすさ:★★★★★
おすすめ度:★★★★
「会計」や「ファイナンス」は、現代の経済において重要な役割を担っており、企業で働いたり、日々生活していく中でも、無縁ではいられないものだ。
とはいえ多くの人は、「決算とは?」「財務とは?」「ファイナンスとは?」と聞かれても、うまく答えられないのではないだろうか。
本書は、とっつきにくい「会計」知識を、様々な歴史上の人物や出来事と絡めながら、誰もが面白く読める内容にまとめあげた「会計エンターテイメント」だ。
歴史をたどりながら、「会計」が発展していった経緯を説明する。
具体的な簿記のやり方ではなく、どのような必要性のもとに「会計」が生まれ、発展していったのかという、会計のエッセンシャルな部分を学ぶことができる。
会計を仕事にする予定のない人でも、教養として読んで損はない内容だ。
本書を読めば、「株」や「金融」にも、「会計」が密接に関わっていることが理解できるだろう。
現代の大企業は、「財務会計」や「コーポレート・ファイナンス」を絶対に無視できない。大手企業で働くビジネスマンであれば、専門ではなくとも、本書で書かれている基礎的な内容は踏まえておきたい。


ジェイコブ・ソール『帳簿の世界史』
ジャンル :会計、歴史
読みやすさ:★★★
おすすめ度:★★★
アメリカの学者による、「帳簿」という視点から歴史を読み解く内容で、高い評価を得ている本。
上で紹介した『会計の世界史』と比べて、初心者に向けてわかりやすく説明するというよりは、問題提起への関心が強い本と言える。
会計と文化との関わりや、会計がどのようにして腐敗していくかなどが論じられていて、帳簿、会計、金融、経済、政治に関連する本質的な教養を得られる。
会計の専門知識がなくとも読めるように配慮されていて、すらすら読めるわけではなくとも、読み通すのに苦労する本ではない。
アテネ、古代ローマ、中世イタリアの記述から始まるが、終盤のほうでは、アメリカの大手会計事務所の腐敗など、現代にも繋がる問題が論じられている。
「会計(帳簿)」という視点から世界史を見渡してみると、新たな視点が浮かび上がってくる。会計に関心が深い人はもちろん、そうでない人も、十分に読むに値する内容と言える。

著者の主張が強い本なので、やや批判的なレビューも書いている。気になる方は以下の記事も参考にしてほしい。

小熊英二『日本社会のしくみ』
ジャンル :労働、歴史
読みやすさ:★★★
おすすめ度:★★★★★
「働き方」に疑問を感じている日本人は少なくないだろう。
「新卒を一括で採用する」「年功序列で昇進していく」など、「日本型雇用」と言われる働き方は、近年はその限界に突き当たり、変えていかなければならないという声も大きい。
「日本型雇用」を説明しようとする書籍は数多くあるが、2019年に出版された本書は、それ以前の日本の雇用・教育・福祉関連の書籍を一冊にまとめあげた「決定版」のような内容で、今から「日本人の働き方」について学びたいのであれば、最初の選択肢として挙げられる完成度になっている。
明治時代から遡り、「日本型雇用」と言われるような、「日本社会のしくみ」を明らかにしようとする。
「雇用」に関連する「教育」や「福祉」にも言及があり、「日本に特有の学歴重視」や「一億総中流とは何だったか」など、日本社会を考えるためのいくつもの重要な視点を提示してくれる。
新書とはいえ、学術性が重視されているので、すらすら読めるわけではないかもしれないが、日本で労働しているすべての人におすすめできる内容だ。
読んだけれど難しかったという人も、当サイトでは、わかりやすいように「要約」や「まとめ」を書いているので、記事を参考にしてみてほしい。


濱口桂一郎『若者と労働』
ジャンル :労働、就活
読みやすさ:★★★★★
おすすめ度:★★★
雇用・労働などが議論されるときに、「ジョブ型」「メンバーシップ型」という言葉が使われることがあるが、本書の著者である濱口桂一郎氏が使い始めた言葉である。
「ジョブ型」「メンバーシップ型」の話を理解したいのであれば、本書は候補の一つに入る。
著者は、雇用・労働に関する書籍を多く出版しているが、本書は「若者」をテーマにすることで、読みやすい内容になっている。
日本と欧米の働き方の違いがわかりやすく対比され、その関連で、「キャリア教育」「氷河期問題」「ブラック企業」の問題が論じられる。
「若者」がタイトルにあるが、若者でなくなった人にもおすすめできる内容だ。

濱口桂一郎『働く女子の運命』
ジャンル :労働、男女
読みやすさ:★★★★
おすすめ度:★★★
濱口桂一郎氏が、「働く女性」をテーマに書いたのが本書。
日本は欧米と比較して女性が働きにくい社会と言われるが、日本の雇用システムを分析することで、その理由が見えてくる。
著者のそれ以前の本を読んでいる人からすれば、目新しい内容は少なめかもしれないが、「男女平等」という視点で考えることで、新しく見えてくるものも多い。
欧米で主流になっている「アファーマティブ・アクション」「ポジティブ・アクション」「ワークライフバランス」が、どのような発想で提唱されていて、それがいかに「日本型雇用」と相性が悪いのかがわかる本だ。
男女平等を考える上で、働く女性のみならず、男性でも読んでおきたい内容と言える。

水町勇一郎『労働法入門』
ジャンル :労働、法律
読みやすさ:★★★★
おすすめ度:★★★★★
「労働法」は、働く人を守るための法律や判例の体系だ。
労働者であれ使用者であれ、「労働法」の基本的なところは知っておきたいものだが、法律のテキストはとっつきにくく、専門外の人にとってはハードルが高い。
本書は、一般の労働者に向けて、労働法の基本的な考え方をわかりやすく解説したものである。
労働法のコンセプト、枠組み、重要な判例、ややこしい部分、労働者が押さえておきたい箇所など、記述のバランスが非常に良く、初心者向けの解説として非常に優れている。
法律を通して、日本社会と欧米社会の労働観の違いを見ることができ、労働に関する多くの示唆が得られる内容でもある。
判例や条文への参照なども豊富で、日本社会で働くすべての人にとって有用な情報が詰まっているので、ぜひとも実際に本を買って手元に置いておきたい。

ハンス・ロスリング『FACTFULNESS』
ジャンル :社会
読みやすさ:★★★★★
おすすめ度:★★
2019年に出版された本書は、『サピエンス全史』などと並んで、2010年代で最も話題になった本の一つだろう。
公衆衛生が専門の著者が、データを元に、現在の世界の正しい姿を提示しようとする。
- 「現時点ですでに生まれる子供の数は横ばいで、世界人口は100億から120億がピーク」
- 「現時点ですでに男女の教育機関の格差はほとんどない」
- 「近年急速に経済が発展した国のほとんどが独裁国家で、民主主義は経済発展と関係が深いわけではない」
など、多くの人の考えを改めさせるようなデータが提示される。
世界の現状に対する素朴な誤解を正すためにも、読んで損はない一冊だ。

実は当サイトでは、『FACTFULNESS』に対して、けっこう辛辣な批判を書いてもいる。「提示されているデータは有用だが、著者の解釈の部分は見習うべきではない」というのが主旨だ。気になる方は以下の記事も参考にしてほしい。

「要約&解説つきのおすすめ本」の紹介は以上。
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