政治学を学びたい人のために、おすすめの「政治学」本を紹介する。
政治についてちゃんと知りたいと考える人は少なくないだろう。
ただ、「政治学」は、「経済学」や「社会学」など他の社会科学と比べても、学問としてそれほどしっかりとした体系があるわけではない。
「政治」は至るところに存在し、またその性質上、専門家同士で議論を深めればよいというものではなく、誰もが意見を交わせるものでなければならない。それらを「政治学」という体系で発展させる試みは、他の学問分野ほどは綺麗に形になっていない印象だ。
それでもこの記事では、「政治」について体系的に学びやすい書籍であることを意図して選んだ。よければ参考にしていってほしい。
目次
成蹊大学法学部『教養としての政治学入門』
初心者向けの「政治学」の案内書・入門書として、政治学関連の専門を持つ執筆者たちが、それぞれガイダンス的な講義を行ったものを書籍化したもの。
地方政治、国際政治、政治理論、政治思想史、行政学、外交史、比較政治など、「政治学」とされているものを俯瞰して学べるラインナップになっている。
「ちくま新書」なだけあって、一定のクオリティは担保されているが、著者ごとの力量のばらつきを感じなくもない。
「政治」についてしっかり学ぼうと考えている人は、まず読んでみて損はない内容になっている。
佐々木毅『政治学の名著30』
ちくま新書の「名著30シリーズ」の「政治学」版で、古今東西の「古典」から、「政治学」にとって重要とされる部分をかいつまんで紹介している。
本の冒頭で著者自身が述べているが、「政治学」というテーマで網羅的に古典を紹介するのは、非常に難しい試みだろう。「政治」という概念がカバーする範囲はあまりに膨大だからだ。
本書では、「政治の意味」「政治権力」「政治と徳」「政治と宗教」「政治と戦争・平和」「政治と経済」「民主政治」「歴史の衝撃の中で」というカテゴリーに沿って、「政治学」の古典が紹介されている。
「政治学」を俯瞰して語るためには、哲学、経済学、社会学、神学、歴史学など、様々なジャンルの教養が必要になる。
「名著30シリーズ」の中でも、「政治学」はもっとも編集の難易度が高いように思うが、著者は見事にそれをやってのけている。
一冊一冊の紹介がしっかりと読み応えのあるものになっているのも素晴らしい。頭から終わりまで順番に読んでいく価値のある本。
加茂利男、大西仁、石田徹、伊藤恭彦『現代政治学』
人文社会系の学術書で名高い出版社である「有斐閣」が出す、「政治学」の教科書的なテキスト。
政治学を網羅的・体系的に解説することを目的とした入門書だ。
「経済学」や「哲学」などは、ある程度しっかりした体系を定めやすいので、新書などでも良書がたくさんある一方、「政治学」は(少なくとも「政治学」という括り)では、あまり入門書や解説書が書かれない。
ただ、有斐閣は、「政治学」関連についても、教科書的に学べることを意図した書籍を手頃な価格で販売しているので、しっかり学びたい人は悪くない選択肢だろう。
2012年の出版だが、現実の政治と接続して考えるという性質上、どうしても情報が古くなっていると感じてしまう部分もある。また、やはり他の学問分野と比較して体系化が難しい印象を受ける。
特に大学の単位や大学院入試と関係がないのであれば、この記事でも後に紹介していくが、興味を持てる政治関連の新書などから読んでいくのがいいかもしれない。
お金に余裕があるなら、学習していく上の索引のような役割を期待して持っておくのはアリ。各分野に参考文献リストも豊富に載っている。
川崎修、杉田敦『現代政治理論』
有斐閣による「現代政治理論」の入門テキスト。
「政治理論」という言葉から、経済学に見られるようなモデル化などを期待するのなら、ミスマッチかもしれない。
「政治理論」という言葉自体にも議論があるのだが、「実証」や「分析」ではなく、「理論」を研究しようとする。
本書は、「正義」「平等」「自由」「権力」「リベラリズム」「デモクラシー」など、政治において当たり前に使われている概念を再検討していく。
文章の質が高く、学びの多い内容で、「政治理論」という領域を知らなかった人にもおすすめしたい。
宇野重規『西洋政治思想史』
「政治思想史」は、現実の政治問題を扱わないが、そのぶん手堅い分野である。
学習したことが積み上がっていく充実感を得られるし、現在に繋がる重要な知識や概念が多いので、「政治を学びたいけれど何からやればいいかわからない」という人は、「政治思想史」の学習がおすすめだ。
過去を学ぶことで、現在の見え方も変わってくる。思想史の知識があれば、政治ニュースを聴いたり論じたりする上でも、表面的でない意見を持ちやすいだろう。
本書も有斐閣から出ているテキストだが、一人の著者が書いているのでまとまりが良く、純粋に読み物として面白い。
「政治学を学ぶための本」の中でも、特におすすめしたい一冊だ。
小笠原弘親、藤原保信、小野紀明『政治思想史』
「政治思想史」の入門書の中でも鉄板で、1987年出版だが古びない。
多くの大学で教科書としても使われているので、大学の教養課程でこれを買わされた人も少なくないのではないか。
やや記述は固く、新書のような読みやすさはないものの、内容の確かさは折り紙付きなので、こちらを買うのも悪い選択ではないだろう。
福田歓一『政治学史』
「政治学の解説書」の名著として名高いのが、福田歓一の『政治学史』。
東大法学部での講義録を元にした本で、格調高く、圧倒されるような文章。
現代的な問題を扱わず、古代ギリシャから近代までの政治学史を扱う。
読みやすいわけではなく、入門書としてはハードルが高い。価格も安いわけではないので、初心者には勧めないが、上で挙げた本では物足りないという方はぜひ本書に挑戦してみてほしい。
日本の選挙『日本の選挙 何を変えれば政治が変わるのか』
言うまでもないが、民主主義は「選挙制度」によって大きく左右される。
「小選挙区制」と「比例代表制」という日本の選挙制度が、どのような経緯で生まれ、どういう形で政治に影響を及ぼしているのか。他国と比べてどのような特徴を持つのか、などを分析し、一般の読者にもわかりやすく提示する。
抽象的な政治学の理論ではなく、現実と接続する主題を扱っている。日本の政治の問題を本質的に考える一助になる内容だ。
一般向けの新書ではあるが、「政治学者」の面目躍如を感じる一冊になっている。
坂井豊貴『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』
著者は経済学者だが、選挙制度の問題を扱っているので、本書は「政治学」のカテゴリーで紹介しても違和感はないものに思う。
「社会選択理論(social choice theory)」という学問分野は、資源分配ルールや投票ルールの評価や設計を行おうとするもので、政治学において重要な意味を持つ。
投票率が低い現代において、「議席の5割以上を占める与党でも、全有権者における得票率は2割に満たない」ということが話題になったこともあった。実は、まったく同じ投票数でも、集約ルールによって当選者がまったく違う、ということが起こりうるのだ。
現代の民主主義は「多数決」によって成り立っているが、その根幹の部分を疑おうとする内容であり、実際の課題に繋がる理論を一般向けにわかりやすく提示する優れた新書である。
飯尾潤『日本の統治構造 官僚内閣制から議院内閣制へ』
中高の社会科、公民、政治経済の単元では、「日本は議院内閣制である」ということを教えられるが、それがどういう意味を持つ制度で、他国と比較してどういった特徴を持つのか、がわかっている日本人は多くない。
政治ニュースで言われるような「政府・与党の二元体制」や「政党政治」など、それらのシステムが、いったいどういう点で特徴的なのかは、それ以外の政治制度を運営している国を見ることで、よりよくわかるようになる。
本書は、他国との統治機構・政治制度比較を通して、日本の政治の特徴を浮き彫りにしようとする。
本書で書かれるような前提を知ることで、「日本政治の何が問題で、どうすればより良くなるのか?」という問題をより生産的に考えることができるようになるかもしれない。
現実的・実践的な日本政治を考えるうえで、多くの人に読んでもらいたい良書である。
待鳥聡史『代議制民主主義 「民意」と「政治家」を問い直す』
こちらも政治制度分析の本で、「代議制度」という仕組みをテーマにしている。
「国民の投票によって選ばれた政治家が民意を反映している」という「代議制民主主義」の前提は、グローバル化やデジタル化の時代にそぐうものなのか。
選挙権が今のように普及する以前の議会の成り立ちから遡って書かれているので、日本の政治制度の仕組みについて勉強になる。
優先度で言えば、上の『日本の統治構造』のほうがおすすめだが、こちらもためになる内容だ。
以上、政治学を学ぶためのおすすめ本を紹介してきた。
当サイトでは、他の分野のおすすめ本や、要約と解説つきのおすすめ本の記事も書いているので、よければ以下も参考にしてほしい。


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