働き方について学びたい・考えたいという人のために、「雇用・労働」に関するおすすめ本を紹介する。
雇用・労働に関する新書や学術書は、問題を摘発するジャーナリズム色の強いものも多いが、この記事では、「仕組み」を解明しようとするタイプの本を選んでいる。
つまり、「これが問題になっている!」というよりも、「なぜその問題が発生しているか」を分析する内容であることを重視している。
雇用・労働・働き方についてしっかり学びたい人は、参考にしていってほしい。
目次
濱口桂一郎『新しい労働社会―雇用システムの再構築へ』
労働法・労働政策の研究者である濱口桂一郎氏による、一般向けの岩波新書。
「新卒一括採用」「年功序列」「終身雇用」といった特徴が「日本型雇用」にはあるとされるが、その特徴と問題点を描き出す。
日本の雇用制度を他国と対比して説明する言葉に「ジョブ型」「メンバーシップ型」があるが、濱口桂一郎氏によるものであり、本書でそれが説明されている。
雇用問題を扱っているが、センセーショナルなものではなく、根底にある原理を解明しようとしている。
岩波だけあって若干文書は固めだが、「日本型雇用」について知るためのスタンダードとも言える内容だ。
濱口桂一郎『日本の雇用と中高年』
「中高年」に焦点を当てて、日本の労働問題を論じている。
「ジョブ型」「メンバーシップ型」という日本型雇用の問題点が説明された上で、では中高年にどのような問題が降りかかっているのかを解説する。
日本の雇用システム上、実は「中高年の失業」が社会問題になりやすい。
「日本型雇用」は、勤続年数を重ねた企業を辞めると不利になるが、会社側が労働者を簡単に辞めさせられない慣行(判例法理)が根付いている。
「辞めにくいし辞めさせにくい」が前提なのだが、多くの企業で労働者を追い込むような退職強要が行われる実態が指摘されるなど、「雇用」のみならず、福祉や家族、文化など、広い視野で「日本の中高年の労働問題」が描かれる。
濱口桂一郎『若者と労働』
濱口桂一郎氏の書籍はいくつかあるが、日本型雇用の問題点を指摘している部分は一貫しているので、どれか一冊を選んで読むといいだろう。
読みやすさを重視するなら、「若者」に焦点を当てた本書は、上の2冊よりも記述がやわらかく、大学生や就活生にもおすすめできる。
「若者」という視点から日本の雇用システムを解説している。新卒採用を控える就活生に有用な内容であることはもちろん、「若者」を通して社会全体の問題を扱っているので、すでに若者ではなくなった人にもおすすめできる。
「ブラック企業」や「就職氷河期」の本質にも迫る内容で、日本社会が抱える問題について、多くの学びがある。
当サイトでは、本書『若者と労働』の「要約と解説」を書いているので、気になる方は以下の記事をチェックしてほしい。

海老原嗣生、荻野進介『名著17冊の著者との往復書簡で読み解く 人事の成り立ち』
「日本型雇用」は、「人事」の影響力が大きいことが特徴だ。
社員の解雇が難しい代わりに、配置換えや転勤などが可能で、「人事」の裁量が大きさは「日本型雇用」の特徴の一つでもある。
本書は、戦後から現代にかけての「日本型雇用」や「日本的経営」の名著と対話するような形で、「日本人の働き方」の特徴と変遷を明らかにしようとする。
単なる分析に留まらず、日本型雇用のメリットもデメリットも見据えたうえで、これからの働き方を探ろうとしている。
雇用・キャリア関連の著書を数多く書いてきた二人の著者による共著だが、学術的な研究に敬意を払いながらも、労働の実態を踏まえて、建設的な提案をしようとしているところが良い。
「雇用・労働・働き方」を学びたい人におすすめなのはもちろん、自分の働き方やキャリア戦略を考えている人にとっても、十分に読む価値のある内容と言えるだろう。
小熊英二『日本社会のしくみ』
日本型雇用を説明した本の中でどれか一冊を挙げるなら、本書を選ぶだろう。
これまでの雇用・労働・教育・福祉・政治など、様々な研究をまとめあげ、一冊の新書で「日本社会のしくみ」を説明した、現時点における「日本人の働き方を学ぶ本の決定版」のような内容。
新書とはいえ、かなり分厚く、読み通すにはかなり骨が折れるかもしれない。
これまで、「日本の雇用システムの現状」をうまく説明する書籍はあったが、一方で本書は、「どのようにして現状の日本の雇用システムが出来上がったのか?」を明らかにしようとする。
現状の働き方やしくみに不満を持っている人は多いが、そのような不満の原因になっているシステムの全体像は、意外と見えにくい。
本書のような厚い本を読み解くのは骨が折れるだろうが、問題の所在と前提をしっかりと認識したいのであれば、ぜひともチャレンジしてみてほしい。
当サイトでは、『日本社会のしくみ』の「要約と解説」や「まとめ」記事も出している。


水町勇一郎『労働法入門』
「働き方」を考えるうえで、「労働法」は避けては通れない。
法律の条文を読んで理解するためには一定の訓練を必要とするが、本書は、一般人に向けて「労働法」のコンセプトをわかりやすく解説する。前提知識がない人がちゃんとわかるように配慮された、丁寧で知性を感じる文章が素晴らしい。
それぞれの国の労働法は、そこで働く人々の労働観・社会観を反映するものでもある。日本と欧米の条文を比較することで、日本人の労働観が見えてくる。
上で紹介してきた本が指摘するような「日本型雇用」の特徴を、実際の「法律」や「判例法理」が反映しているので、本書を読むことでさらに理解が深まるだろう。
労働問題を考える以前に、社会で働く労働者・使用者として「労働法」は知っておいて損のないものであり、本書はそのようなニーズにも十分応えるものになっている。
専門ではない人にとって「法律」は取っ付きにくいものかもしれないが、だからこそ読んでみてほしい。
当サイトでは、『労働法入門』の「要約と解説」を書いているので、気になる方は以下をチェックしてほしい。

「雇用・労働・働き方」を学ぶためのおすすめ本の紹介は以上。
当サイトでは、哲学、経済学、政治学、社会学などのおすすめ本記事も出しているので、よければ以下も見ていってほしい。




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