「日本人の働き方」は、「日本型雇用」や「日本的経営」と呼ばれていて、他国とは異なる、日本企業ならではの特徴を持っていると言われる。
この記事では、いくつかの参考文献をもとに、「日本型雇用(日本的経営)」について詳しく解説する。
「自分が働いている社会の基本的な仕組みくらいは知っておいたほうがいい」ので、日本型雇用についてまだよくわかっていない人は読んでいってほしい。
目次
日本型雇用とは何か?
「日本型雇用」は、日本に特徴的な雇用慣行のことだ。
似たような言葉に「日本的経営」があり、どちらも「日本人に特徴的な働き方」という意味で使われることが多い。
具体的には
- 新卒一括採用
- 年功昇給(年功序列賃金)
- 終身雇用
- 企業別労働組合
- 職能(職務遂行能力)の重視
- 配置転換
といった仕組みが、「日本型雇用」だ。
中でも、「年功昇給」「終身雇用」「企業別労働組合」は、「三種の神器」と言われたりする。
以下で、それぞれの意味と特徴を解説していく。
新卒一括採用
中卒、高卒、大卒を、卒業したタイミングで「一括採用」する雇用のやり方は、日本では当たり前だが、日本以外の国ではそれほどメジャーなものではない。
欧米では、求職者は、企業が出している採用に応募することになるが、新卒かどうかは関係ない。
「新卒一括採用」は、若者が採用されやすい仕組みではあるが、「新卒」のタイミングを逃した人がキャリアを積めなくなりやすいという問題を抱えている。
(参考:日本は若者が就職しやすい社会【若者は搾取されているのか?】)
年功昇給(年功序列賃金)
日本企業では、勤続年数によって給料や役職が上がっていくものとされている。
これは、「年功昇給」あるいは「年功序列」と呼ばれる。
日本企業の出世において最も重要なのは「勤続年数」というファクターであり、まったく同じ仕事をし続けていても、所属しているだけで昇給していく。
「同一労働同一賃金」を原則とする欧米では、「同じ仕事を続けているだけで給料が上がっていく」ことはない。
欧米の場合は、年齢や勤続年数に関係なく、「同じ仕事をしていれば同じ賃金であること」が重視されるので、若者も中高年も、仕事が同じであれば給料も同じだ。
(参考:「同一労働同一賃金」とは何か?なぜ変な政策なのかを解説【働き方改革】)
終身雇用
日本企業は、欧米に比べて、労働者を解雇する条件が非常に厳しい。
企業の業績がひどく傾き、「解雇整理」が必要になってはじめて、労働者をリストラできる。「仕事がなくなった」程度の理由では労働者を解雇することができない。
日本型雇用においては、社員は企業に対しての忠誠心を要求されるが、そのかわり、企業も簡単に社員を解雇できないのだ。
といより、もし企業が都合よく労働者を解雇できるなら、「終身雇用」という概念は存在しなかっただろう。
労働者が辞めると不利になりやすい一方で、企業側も労働者を辞めさせにくいから、「終身雇用」と言われるような状況が成立する。
企業別労働組合
欧米は「職業別労働組合」が多いのに対して、日本は「企業別労働組合」が多い。
欧米の労働者は、「会社」よりも「職種」で連帯しがちなのに対して、日本の労働者は、「職種」よりも「会社」で連帯しがちなのである。
(参考:労働組合とは何か?加入のメリットはある?現状をわかりやすく解説)
職能(職務遂行能力)の重視
「職能」は、「職務遂行能力」の略で、かなり変な言葉なのだが、「汎用的な能力」みたいな意味で使われている。
ややこしいが、「職務」と対応する形で「職能」という言葉が使われ、
- 「職務」……具体的な仕事を行う専門的な能力
- 「職能」……どんな仕事にも適用し得る汎用的な能力
という区別になっている。
日本型雇用では、様々な職場を体験しながら出世していくという働き方をする。
そこでは、「具体的に○○ができる」という専門的な能力よりも、「汎用的な能力」的なものが勤続年数を重ねるほどに高まっていくという前提が必要で、それを説明するために用いられている言葉が「職能(職務遂行能力)」だ。
(参考:職能資格制度とは何か?意味不明な言葉の本質を解説【年功序列】)
配置転換
「配置転換」は、社員の職務内容や勤務地を変更することを言う。(狭義の「人事異動」だが、「人事異動」は「採用」や「退職」も含む。)
日本企業では「配置転換」が当たり前のように行われるが、欧米の多くの企業では、事前に取り交わす「職務契約」に無いことを命じるのは禁じられていて、日本ほど会社に都合の良い「配置転換」を労働者に強制するのはかなり難しい。
日本の「配置転換」は、「単身赴任(家族と離れたところで働かせる)」や「出向(別の企業で働かせる)」も含み、かなり使用者(会社)側の都合が優先されるものになっている。
「単身赴任」や「出向」などのような措置は、欧米の基準では人権侵害だが、日本では当然に従わなければならないものとされているし、それを追認する裁判所の判例もある。
「日本型雇用」においては、
- 会社は雇用した社員を簡単に辞めさせられないし、勤続年数に応じて出世させなければならない
- 社員は会社が命じる配置転換に従わなければならない
というトレードオフが発生している。
ざっくりまとめてしまうと、「社員は会社に忠義を尽くすが、会社もそれに応じる」というやり方が、「日本型雇用(日本的経営)」だ。
では以降、「日本型雇用のメリットとデメリット 」を述べていく。
我々が働く社会のベースになっている「日本型雇用」という仕組みの、良い部分と悪い部分の両方を認識することは、今後どのような働き方を目指していくべきか、どのような社会が望ましいのかを考える判断材料になるだろう。
メリットとデメリット①「柔軟性」と「専門性」
「日本型雇用」の強みの一つは、人員配置の「柔軟性」にある。
日本型雇用のトレードオフにおいて、
- 社員は企業に所属しているだけで「年功昇給」していく
- 社員は企業が命じる「配置転換」に従わなければならない
が成り立っている。
これは、欧米ではそうではない。
欧米は「職務契約」を重視するので、最初に「この職務内容でこの働き方をする」という契約を結んだあと、会社側の都合で労働者の「配置転換」を自由に行うことは難しい。
日本では、「必要なところに必要な人材を割り当てる」ことが当たり前のように行われているが、実はこれは、けっこう特殊な働き方なのだ。
社員を自由に配置できる「柔軟性」は、日本経済の強さの源泉として、海外からも評価される要素だった。
20世紀の後半は、産業構造の変化が激しくなっていた時代だった。
「この職務内容でこの働き方をする」という契約で雇用された場合、その仕事がなくなると、労働者は解雇されることになる。
一方で日本型雇用では、職務を限定した人の雇い方をしないので、「柔軟な配置転換」によって、産業構造の変化や経済危機などに比較的うまく対応することができた。
「柔軟性」があることは、日本型雇用のメリットと言えるが、それと対になるデメリットは、「専門性」を活かしにくいことだ。
日本型雇用において、社員は、企業の様々な部署を巡って、多様な仕事を経験しながら出世していく。「職能(どんな仕事にも適用し得る汎用的な能力)」という言葉で表される総合力が評価され、「視野が広く経験豊富な万能タイプ」が出世しやすい傾向にある。
一方、日本型雇用は、「専門性の高い人材」を適切に評価する枠組みを持っていない。
往々にして、専門性の高い人材ほど、自分の専門分野以外は苦手だったりする。「尖った天才タイプ」の人材を適切に活用しにくいのが、日本型雇用の欠点だ。
企業内の「OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)」で多様な経験を積んだ人材が出世していく仕組みの上では、学術機関で高い専門性を身に着けた「博士号持ち」などの人材を、うまく仕組みの中に取り組むことができない。
近年は、産業構造の変化の激しさとともに、高い専門性を必要とするタイプの仕事が増えてきた。
そのため、多くの日本企業が専門性のある人材を活かそうと努力している。しかし、「日本型雇用」のベースが、「専門性」と相性が悪いために、うまくいかないことも多い。
「柔軟性」と「専門性」は、両立しがたい性質があり、「柔軟性」を持つ日本型雇用なだけに、「専門性」を取り入れづらいという問題がある。
逆に欧米では、「そのつど契約する」という意識が強いので、「柔軟性」はなくとも、日本ほど「専門性」が軽視されることにはならない。
また、「欧米に柔軟性がない」のは「会社」という枠組みで見た場合であって、「個々の会社を超えた社会全体」となると話は変わってくる。これについては、次の「人材の流動性」で述べる。
メリットとデメリット②「人材の流動性」の低さと高さ
日本企業は「年功序列賃金」なので、所属している企業を辞めた労働者は不利になりやすく、人材の流動性が低い。
しかしこれは、一概に悪い要素とも言えない。
労働者が会社を辞めれば不利になる代わりに、企業が労働者を「解雇」する条件が厳しく、失業率が低く社会が安定しやすいというメリットがある。
過去、世界が大規模な不況に襲われた事態が何度かあった。
- 1973年のオイルショック
- 2007〜10年のリーマンショック(世界金融危機)
- 2020年のコロナショック
といった世界的な不況は、それぞれの国の経済システムの弱点を浮かび上がらせた出来事でもあった。
そのとき、欧米では失業率の増加が深刻な社会問題になったのに対して、日本は失業者が比較的少なかった。
- 「配置転換」の柔軟性
- 「解雇」の厳しさ
という要因によって、経済的に厳しい状況でも、日本企業は社員を雇い続け、「配置転換」を駆使して対応しようとする(せざるを得ない)傾向があるのだ。
「人材の流動性」に関して、日本と対照的なのがアメリカだ。
欧米は日本に比べて労働者を解雇しやすいが、特にアメリカはEU諸国と比べても解雇要件が緩い。そのため、不況が起こったとき、アメリカには日本とは桁が違う数の失業者が発生する。
ただ、注意したいのは、アメリカにおける「失業」は、日本人がイメージする「失業」よりも深刻さの度合いは低い。
そもそもの「雇用」と「解雇」の重みが違うのだ。
- 「人材の流動性が低い」社会は、「雇用」と「解雇」が重い
- 「人事の流動性が高い」社会は、「雇用」と「解雇」が軽い
日本では、「解雇」が難しいからこそ、「雇用」も慎重にならざるを得ない。そのため、失業してからの再雇用が難しい傾向にある。
アメリカでは、「解雇」が簡単なぶんだけ、「雇用」も比較的されやすい傾向にある。
すぐに雇用してすぐに解雇するという「人材の流動性の高さ」が、アメリカという国のダイナミズムの要因の一つになっている。
「人材の流動性が高い」アメリカの国の、良い側面を見れば、イノベーションが起こりやすく、Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoftなど、世界に名だたる企業の多くがアメリカの企業だ。一方で、そのようなグローバル企業を生んできたぶんだけの利益が、アメリカ国民に還元されているとは言い難い。
アメリカの悪い側面を見れば、世界一のGDPを誇る国でありながら、格差や貧困などの深刻な社会問題を膨大に抱えていることだ。日本も数多くの社会問題を抱えているが、アメリカほどヤバくはない。
日本の「人材の流動性の低さ」は、たしかに社会の硬直性を生みやすく、改善すべきという意見が多い。それは間違っていないが、人材の流動性を高くしさえすれば社会が良くなるというわけでは決してない。
社会が安定的であることで社会問題が抑えられている側面もあり、人材の流動性が低いことは、一概に悪いとも言えない。
メリットとデメリット③「モチベーション」と「ワークライフバランス」
「欧米はワークライフバランスが充実していて、日本人は働きすぎ」というようなイメージがあるが、実際のところ日本型雇用は、社員みんなのモチベーションが高くなりやすい仕組みである。
ただ、欧米の労働者があまり働かないというわけではなく、欧米の場合、「階層」によってモチベーションの高さが大きく異なる。
世の中に多様な仕事があるが、ここでは話を単純化して、
指示・管理する仕事(管理職、意思決定、マネジメント)
手続きをする仕事(事務職、技術職、専門技能)
指示・管理される仕事(作業労働、現場の仕事)
という「階層」の区分けをしたい。
実は欧米は、日本よりも上のような「階層」が意識されやすい。
欧米でも、「管理職(指示する仕事)」に携わるためには、高い能力、ハードワーク、仕事へのコミットメントを求められ、日本人の基準からしても「めちゃくちゃ働いている」と言える。
どこの先進国であれ、待遇が良く裁量の大きな仕事は、「ワークライフバランス?舐めたこといってんじゃねえ!」という感覚になる。
一方で、欧米は、事務職・技術職・作業労働(指示されて働く人)の「ワークライフバランス」がきちんと守られる。
現在の先進国は、過去の労働問題の反省から、労働者の権利をきちんと守るようになっている。実は、社会的に待遇が低いとされる(裁量が与えられない)仕事ほど、法的には強く保護されるのだ。
一方で、待遇が良くて競争が激しい(大きな裁量が与えられる)仕事ほど、法の保護は弱い。
- 労働者に大きな裁量が与えられる仕事(指示する仕事)ほど、法的に保護されない
- 労働者に裁量がない仕事(指示される仕事)ほど、法的には厚く保護される
欧米は、「ワークライフバランス」が充実していると言われるが、労働時間が短い(保護が強い)のは、労働者に裁量が与えられないことの裏返しでもある。
欧米の雇用システムでは、日本のように「長く勤めているだけで出世する」なんてことは起こらない。「同一労働同一賃金」の契約なら、どれだけ長く働き続けても待遇は変わらない。
もちろん、職歴を経ることでキャリアップできる職種も多いが、「企業に所属しているだけで管理職に昇進できる」ことはなく、最初に「作業労働」的な職務につけば、待遇はずっとそのままである。
そのため、欧米では、低い階層の職からキャリアアップをしたい場合、何らかの資格の取得や、大学で学位を取得することが一般的な方法になる。
大学入学者の平均年齢は、日本が18歳なのに対し、OECD加盟国の平均は22歳だ。これは、日本人の知的好奇心が低いというわけではなく、日本では企業内で働き続けることがキャリアに繋がるのに対し、欧米では企業外(大学)で新しい学位を取得することがキャリアに繋がるという社会システムの違いなのだ。
日本は「人材育成システム」が企業の内部にあるのに対し、欧米では「人材育成システム」が企業の外部にあると言うこともできる。
日本社会で働いていると理解しにくいかもしれないが、欧米は「企業内で社員がキャリアアップしていく仕組み」を備えているわけではない。
一方の「日本型雇用」では、基本的には、年次が若いほど「実務的」な仕事をして、出世するほど「管理職」に近い仕事をするようになる。
配置転換で様々な部署を経験しながら、同一企業内でキャリアアップしていける仕組みになっているのだ。
日本型雇用は、すべての社員を「管理職候補」として採用しているとも言える。
「管理職候補」であり、出世する可能性があるからこそ、日本の「社員」のモラルとモチベーションは高い。
「同じように仕事をしていてずっと同じ待遇」よりも、「頑張りしだいでキャリアアップの可能性がある」ほうが、モチベーションを維持して働きやすい。
「待遇が良く裁量の大きい仕事」の場合、基本的にどこの国でも労働者のモチベーションは高い。
一方、「事務作業」や「作業労働」的な仕事ですら「現場がめちゃくちゃ頑張る」のが日本型雇用の特徴で、これが「日本人は働きすぎで、欧米人はワークライフバランスが充実している」の正体である。
欧米のように「雇用されなおす」必要がなく、同一企業内での頑張りによって評価が定まるので、「単純作業」「実務作業」のレベルの仕事でも、日本人はかなり一生懸命やる。
そのため、「現場レベルでの改善」と「モラルの高さ」が、日本型雇用の強みとされてきた。「管理職の専門性が乏しい一方で、現場が優秀」なのが日本の特徴なのだ。
一方で、他国では労働規制がしっかり守られる「作業労働」に類する仕事に従事している人が、過剰労働を求められやすいのが、日本型雇用の欠点だ。
日本型雇用の仕組みを「悪用」し、出世の見込みがない単純作業にさえ管理職レベルのコミットメントを要求する企業が現れ、「ブラック企業」問題とされてきた。
現場レベルの労働の延長に出世の可能性があり、末端労働者のモチベーションが高いのが日本型雇用の強みだが、それゆえにワークライフバランスが守られないという欠点がある。
- 欧米では、「階層」の区分けがきちんとあるがゆえに、「低い階層」のワークライフバランスが守られる。
- 日本では、「階層」を乗り越える出世の可能性があるがゆえに、「低い階層」ですらハードワークが求められる。
これは、一長一短であり、どちらが良いということもできないだろう。
「出世しなくていいから楽に働きたい」のか、「出世を目指しながら頑張って働くのが楽しい」のかは、人それぞれだ。
以上のような経緯を踏まえれば、「欧米はワークライフバランスが充実しているから良い」という単純な話でもないことがわかるが、とはいえ「過剰労働が要求されやすい」日本のシステムを手放しで称賛するわけにもいかない。
メリットとデメリット④「企業別労働組合」と「職業別労働組合」
日本企業は、「男女の平等」や「人種の平等」に対応できていないと指摘されることが多い。これは確かにその通りである。
だが、日本型雇用も、欧米の働き方も、どちらも「不平等」であり、その「不平等」のあり方がそれぞれ違う。
「不平等」あり方は、「権利」のあり方の裏返しである。
各国の労働システムは、労使(労働者と使用者)の対立と協議によって形作られていった。
「使用者(雇用する側)」は、労働者をなるべく都合よく使いたがる。それに対して「労働者(雇用される側)」は、団結し、労働者の「権利」を勝ち取ってきた。
ただ、そうやって確立されてきた「権利」こそが、「不平等」の源泉になっていて、そのあり方がそれぞれの社会で異なる。
例えば、「職業別労働組合」の欧米の場合、「同じ仕事をするなら同じ待遇(同一労働同一賃金)」という権利が重視された。
欧米では、「同一労働同一賃金」が重視され、同じ技能と同じ経歴を持つ人材であれば、人種や性別などの要素を考慮せず、同じ待遇を与えなければならない。しかしそれは、逆に言えば、「職務」が違えば大きく待遇が異なってもよいとされることでもある。
そのため、欧米では「職務」や「学歴」よる格差が大きくなりやすい。「同じ資格」「同じ経歴」の場合は、性別や人種での差別が厳しく禁じられるが、「管理職」と「単純作業」とでは、職務が違うので、大きく待遇が異なっても許容される。
欧米では、「階層」によって大きく生活が異なり、それが「資格や経歴の違い」という形で追認されやすい。「階層(世代を超えて再生産される、逆転が難しい格差)」が固定されていくのは、深刻な社会問題である。
同じ「職務」なら差別は禁止されるが、それゆえに、「職務の違い」が大きな格差になりやすいのだ。
一方、「企業別労働組合」の日本の労働運動では、「同じ会社の社員なら同じ待遇」という権利が重視された。
そのため、日本企業においては、社員は似たような扱いを受ける。出世のスピードにそれほど大きな差がつかず、勤続年数によって全員がある程度は出世していく。
しかし、日本の場合、「正社員」と「それ以外」で格差が生じる。
労働運動の結果として、「社員」は権利になったが、それゆえに「正社員」と「非正規」との間に大きな格差ができる。
また、日本企業における正社員は、企業への全面的なコミットメントが求められるという性質上、女性や外国人は不利になりやすい。また、「博士」のような専門性を高めた人材も、日本型雇用の仕組みでは不利になりやすい。
「同じ仕事をしているなら平等」という「職業別労働組合」的な権利であれ、「同じ企業の社員なら平等」という「企業別労働組合」的な権利であれ、その「平等」こそが、「不平等」の原因になってしまう。
他国の「平等」に着目してそれを目指そうとか、自国の「不平等」に着目してそれをなくそう、というのは重要な指摘ではあるが、特定の「平等」を成り立たせている権利こそが「不平等」を生むという性質も考慮に入れる必要がある。
日本企業では「正社員の働き方」が重視されるので、女性、外国人、博士が不利になりやすい。欧米企業では「資格と職務経験」が重視されるので、階層が固定化されやすい。もちろん、日本にも階層の問題はあるし、欧米でも男女や人種の格差問題は存在する。ただ、社会システムの違いによって、程度の差は生じる。
- 欧米は「階層」が固定化されやすい
- 日本は「女性、外国人、博士」が不利になりやすい
これに関しても、どちらが優れているとは言えない。
日本型雇用のメリットとデメリットまとめ
これまで述べてきた、「日本型雇用」のメリットとデメリットを、改めてまとめる。
①「年功昇給」と「人員配置(の自由さ)」は、
- 「柔軟性」が機能しやすい(変化や危機に対応した人事をしやすい)
- 「専門性」を活かしにくい(専門性の高い人材を活用しにくい)
という利点と欠点がある。
②「新卒一括採用」と「終身雇用」(人材の流動性の低さ)は、
- 失業率が低く、社会が安定しやすい
- 社会のダイナミズムに乏しい
という利点と欠点がある。
③「年功昇給」と「職能」重視のキャリアアップシステムは、
- 現場作業、事務作業レベルの仕事でも、社員のモチベーションが高い
- 本来ならば労働量が制限される職務の過剰労働を招きやすい
という利点と欠点がある。
④「企業別労働組合」による「会社」という枠組みでの平等のあり方は、
- 「階層」による格差が欧米よりは生じにくい
- 「正社員」かどうかの格差(実質的な男女差別・外国人差別)が生じやすい
という利点と欠点がある。
以上、「日本型雇用(日本的経営)」の解説をしてきた。
これまでの話は、日本社会で働く人にとって重要な前提なので、何かの参考になったなら幸いだ。
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