よく、「日本人は働きすぎ」とか「日本人は残業が多い」と言われる。
ただ、国際労働比較のデータなどを見ると、現在の日本は、特別に労働時間が多いわけではない。
実際のところ、日本が働き者というのは本当なのだろうか?
この記事では、データや制度比較などによって「日本人の労働時間が長いとされている理由」を解説する。
目次
データを見る限り、「日本人の労働者」は特別に労働時間が長いとは言えない
以下は、「我が国における時間外労働の現状 – 厚生労働省」から引用するデータである。
[画像]詳しくはリンク先を見てもらいたいが、グラフから読み取れることとして
・「日本人の労働時間」はここ20年で大幅に減っている
・「正社員」の労働時間はあまり変わっていない
・パートタイム労働者の労働時間は減っている
・パートタイム労働者の比率が増えている
・日本の平均労働時間は他国と比べて特別高いわけではない
ということが言えるだろう。
「正社員」の労働時間はほとんど変わっていないが、「非正規(パートタイム)」の労働時間は減っている。
「日本人の労働者」における「非正規」の比率が高まっているので、「日本人の労働時間」は全体としては減少傾向にある。
「正規雇用」と「非正規雇用」を合わせた「日本人の労働者」という括りで見た場合、上のデータにあるように「日本人」は他国と比べて特別に労働時間が長いわけではない。
非正規雇用もれっきとした日本人の労働者である以上、「日本人は他国よりも働きすぎ」と言うべきではないかもしれない。
おそらく、日本人の「正社員」はそれなりに長く働いている
注意したいのは、「労働時間」のようなデータは、国や職種によって計測方法や計測の正確さが異なる場合があり、ブレやすいものでもある。
「残業時間などが正しく集計されていない」職場で働いたことのある日本人は少なくないだろう。日本は、労働法を厳密に適用するよりも、労働協定などを重視する働き方をしているなどの事情もある。
おそらくだが、日本人の「正社員」に関して言えば、平均的に他国の労働者よりもよく働くし、労働時間も長いだろう。これについては、これから構造的な理由を説明していく。
ただ、日本人も「正社員」と「非正規」とで労働時間が大きく異るように、欧米諸国も「職種」によって労働時間が大きく異る。
どこの国でも上位層はめちゃくちゃ働く
これは世界共通だが、待遇が良くて裁量の大きな仕事(管理職・マネジメント職・CEOなど)は、そもそも「労働時間」という概念を当てはめられるような種類のものではない。
裁量が大きな仕事ほど、「労働時間」は関係なく、「成果」が求められる。
仮に実態としての労働時間が短く見えたとしても、その職に就くまで、あるいはその立場を維持するために、膨大な資質と訓練が必要になる。
わかりやすい例を出すなら、プロのスポーツ選手の場合、試合に出た時間や練習時間を区切って、時間分の給料を与える、という雇用システムにはなっておらず、「契約と成果」が重視される。
欧米における管理職・マネジメント職などの仕事は、もちろん様々な契約の仕方があるものの、基本的にはスポーツ選手と似ていて、「契約と成果」が重視される。
それに比べて、「年功序列で上位職になっていく」という日本型雇用の仕組みは、けっこう特殊なのだが、日本でも「管理力」になると「残業」という概念が適用されなくなる。
自分の裁量によって成果が左右されやすい上位の仕事ほど、「労働時間」という概念を当てはめにくいものになる。
裁量の大きな仕事ほど守られず、裁量のない仕事ほど守られる
「労働法」や「労働者の権利」は、弱者を守るためのものであり、基本的には「裁量の大きな仕事ほど守られず、裁量のない仕事ほど守られる」傾向がある。先進国であるほど特にそうだ。
多くの人が考える「劣悪な労働」は、「裁量がまったく無いにも関わらず、めちゃくちゃ長い時間働かされる」というものだろう。労働法や人権が確立される前の時代には、そのような実態が確かにあった。
ただ、「劣悪な労働」があった過去の反省から、労働者の権利を重視しているのが現在の先進国なので、単純労働者の労働環境を守る仕組みがしっかり整備されているし、日本も例外ではない。
日本でも、アルバイトや派遣労働者のような「非正規雇用」であれば、労働時間はしっかり守られるし、働いた時間ぶんの給料をもらえる。裁量がなく、将来の発展性に乏しい仕事ほど、法と権利によって手厚く保護されるのが現代の労働のあり方なのだ。
世の中には様々な仕事があるが、ごく単純化して
・上級職……競争が激しく、裁量の大きな仕事
・中級職……一定の資格や技能は必要とするが、裁量は少ない仕事
・下級職……誰でもできるが、裁量のない仕事
という分類をしたとする。
この場合、「下級職」であるほど、法律でしっかり保護される。
「上級職」は、性質上、「労働時間」の規制をしても仕方がない場合が多い。
基本的に、労働法や労働協約で定められる労働時間規制などは、「上級職」にあたる人が「中級職」や「下級職」を使うときに守らなければならないルールだ。
「中級職」や「下級職」は、目標の設定や方法の選定などの裁量がなく、「上級職」に「使われる立場」だからこそ、労働法などのルールによって
ただ、国によって「上級職」「中級職」「下級職」の「枠」が異なり、それが「日本人は働きすぎ」に繋がる。
末端と中堅がよく働く「日本型雇用」
「日本型雇用」の特徴については、
・日本型雇用(日本的経営)とは何か?メリットとデメリットを解説
・「ジョブ型」と「メンバーシップ型」の働き方の違いを解説する
などの記事で詳しく解説したのだが、今回はこの記事の主旨に沿って手短に説明する。
欧米は、「職種」の移動が難しい働き方をしている。
つまり、「管理職候補のエリート」など、「上級職」として雇われた人は、ずっと「上級職」としてキャリアを積む。「中級職」ならずっと「中級職」、「下級職」ならずっと「下級職」と、勤続年数を重ねても待遇が変わっていくわけではない。
「職種」の移動が難しいからこそ、「中級職」や「下級職」の保護がしっかりされる。
ようは、欧米は、「キャリアが変化する可能性がない代わりに、ワークライフバランスがしっかり守られる」という雇用システムなのだ。
[図解] 上級中級
下級
(欧米の場合)
(きっぱり別れる)
(中級、下級の待遇がしっかり保護される)
一方で、「日本型雇用」は、勤続年数の長さによって「下級」から「上級」へとキャリアアップしていく雇用システムだ。
日本の「正社員」は、年齢が若いうちは、現場作業などの「下級職」的な仕事が多く、年齢が上がるほど、管理・企画・マネジメントといった「上級職」的な仕事が多くなる。
日本の場合、欧米のように「入ったらずっとその職種のまま」ではなく、職種が変化しながら出世していくし、頑張り次第で「上級職」に行くことができる。
しかしその代わり、全員が若いうちから「将来の幹部候補」として扱われるので、実態としては「中級職」や「下級職」にあたる仕事をしていても、欧米のように法的な保護が与えられない場合がある。
つまり日本は、「キャリアアップの可能性がある代わりに、ワークライフバランスがあまり守られない」という雇用システムなのだ。
[図解] 上級中級
下級
(日本の場合)
(曖昧な感じ)
(可能性があるが、待遇が保護されないことも)
欧米の場合、一握りのエリートが「上級職」の枠組みで働くのに対して、日本の場合、約3割程度に選別した「正社員」が、「将来は上級職になる可能性のある幹部候補」として働く。
「下級職」や「中級職」レベルの仕事を、「上級職」に近いモチベーションで行わせるのが、日本人の働き方であり、だからこそ日本の労働者は「現場」が強いのだ。
「日本人が勤勉で、欧米人が緩く働く」みたいなイメージがあるが、たしかに「下級職」「中級職」という「現場」レベルの仕事で比較するなら、日本人の労働者は欧米人からは考えられないくらいしっかり働く場合が多いだろう。
ただ、「上級職」に関して言えば、年功序列で「管理職」になった日本人よりも、ファーストキャリアの時点で「管理職」としての能力を鍛えてきた海外のエリートのほうが、能力が上である場合が多い。
簡単に言えば、「日本型雇用」は、「末端と中堅がよく働く代わりに、上司のレベルが低い」仕組みなのだ。
そして、「日本型雇用」で起こりがちな問題として、
・本来なれば労働法の保護がしっかり適用されるはずの「中級職」「下級職」でさえ過剰労働を招きやすい
・「正社員」という枠組みがあるからこそ、「非正規雇用」との格差が問題になりやすい
などが挙げられる。
日本でも、「パートタイマー(非正規雇用)」は、労働法の保護がしっかり及ぶのだが、「正社員」という権利のあり方が強いので、賃金が低く、長期雇用が保障されていないなどが問題になりやすい。
[図解] 上級中級
下級
(本来なら保護されるべき仕事の過剰労働が生まれやすい)
(正社員とそれ以外の格差)
「日本人は働きすぎ」の正体は何か?
欧米の基準であればしっかり待遇が保護される「下級職」「中級職」レベルの仕事を、「上級職」に近い意識の高さでやる、というのが日本人の「正社員」の働き方であり、これが「日本人は働きすぎ」の正体だ。
「上級職」の場合、どこの国でも基本的に競争が激しく、仕事のための自己投資に時間をつぎ込むのが当然なので、「労働時間」で括られるような仕事をしていない。
ゆるいと言われる欧州でも、「管理・企画・マネジメント」のような立場であれば、基本的にかなり熱心に働いていると見るべきだろう。一方で、「中級職」「下級職」の場合は、労働法が厳密に適用され、キャリアアップの望みはなくとも、仕事以外に価値を見出すゆるい働き方をしている場合が多いかもしれない。
「非正規雇用はなぜ増えたのか?本当は何が問題なのか?構造的な理由を解説」の記事でも述べたが、「正社員」が約3割くらいなのに対して、「非正規雇用」が増えていて、上のデータで示したように、正規と非正規を合わせた「日本人の労働時間」を見る限り、日本人の労働時間は、もはや他国と比べて特に高いわけではない。
どこの国であれ、一握りの「上級職」にあたる人たちはめちゃくちゃ働いている。日本における「正社員」は、それなりの数の人たちを「上級職予備軍」みたいな形で雇うので、それが「日本人は働きすぎ」の実態を生んでいるのだろう。
団塊の世代より坊っちゃん世代は弱いですね…。特に冬の季節は学級閉鎖や非正規雇用者も休み増加ですね…。娯楽ニート社会で残念ながらポイ捨てゴミが増加するだけですね…。⛩️…。♪