労働組合とは何か?加入のメリットはある?現状をわかりやすく解説

「労働組合」という組織があること自体は、社会人なら誰もが知っているだろう。

だが、労働組合の組織率は低下し続けているし、今の20代、30代の労働者のほとんどは、労働組合を自分と関わりのあるものとして考えてはいないだろう。

今回は、

  • 労働組合とは何か?
  • 日本の労働組合の特徴
  • 労働組合がある意味
  • なぜ労働組合が衰退しているか?
  • 今から加入するメリットはあるか?
  • これから労働組合はどうなるか?

について解説していく。

「労働組合」について、何か思うところのある人、教科書的な説明ではなく実情や経緯を知りたい人は、ぜひとも参考にしていって欲しい。

 

労働組合とは何か?

「労働組合」は、労働者が団結して作る団体のことで、この権利は憲法によって保証されている。

憲法28条は、

  • 団結権(労働組合を作る権利)
  • 団体交渉権(労働組合が交渉する権利)
  • 団体行動権(労働組合が行動する権利)

を認めている。

「労働者が労働組合を作る権利があること」くらいまでは、誰もがわかっていることだろう。

労働組合において、特に重要なのは、「労働組合法第16条」で

労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となった部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても、同様とする。

が原文だ。

「労働組合」と「企業」が結ぶ「労働協約」は、かなり強い「法源(法の妥当性の根拠)」として認められている。

労働者の権利を守るために「労働法」などのルールがある。だが、世の中には多種多様な働き方があり、法律の「一律なルール」だけでは、それをすべてカバーできない。

例えば、仕事が多い日と少ない日が極端な仕事の場合、労働基準法の一律な時間制限をちゃんと守ると、まともに働けなくなる。そのようなとき、労働者の団体である「労働組合」と「会社」側が、協議によって、「法律を上書きするルール」を作ることができるのだ。

日本で最も有名なのは、「36(さぶろく)協定」と呼ばれる、「労働基準法第36条」だ。

「36協定」を簡単に言うと、「労働組合」と「会社」の合意があれば、労働基準法で決められている労働時間を延長させて良いという法律で、これによって、高度経済成長における日本人のハードワークが成り立ってきた。(ただし、2019年の法改正によって条件が厳しくなった。)

「労働組合」というと、「企業と戦う!」みたいな戦闘的なイメージが抱かれがちだが、ほとんどの場合は、穏健に話し合うのが主となる。

労働者側と会社側で、「お互いに納得できるルールを作っていきましょう」という形での話し合いが必要になるが、その役割を担うのが「労働組合」なのだ。

 

日本の労働組合の特徴とは?

日本と欧米の労働組合について、日本は「企業ごと」で、欧米は「職種ごと」という違いがある。

  • 日本は「企業別労働組合」が主流
  • 欧米は「職種別労働組合」が主流

これについては、それぞれに長所と短所があって、

  • 日本の「企業別労働組合」は、影響力が弱いが柔軟性が高い
  • 欧米の「職種別労働組合」は、影響力が強いが柔軟性が低い

という特徴がある。

欧米の労働組合は、企業の「外」にあるがゆえに、強い影響力を発揮しやすい。

例えば、企業が価格競争をしていて、労働者の賃金が下げられようとしていたとする。もし労働組合が企業の「内」にあるなら、相手の企業に勝つために、労働者は忍耐を強いられるかもしれない。だが、企業の「外」に労働組合があるならば、その職種を必要とするそれぞれの企業に対して、「この職種の労働者を雇うなら、最低賃金は○○までは保証しろ」などの形で強い影響力を発揮することができる。

欧米は、「職種」で団結する組合が多く、個々の企業とは別軸で成り立っているので、企業に対して強い影響力を持ちやすい。

一方で、「職種別労働組合」は、影響力が強いぶん、柔軟性が低い。全国的な規模での交渉が多くなり、そのときどきの細かい調整が難しくなる。

日本の「企業別労働組合」の場合、企業の「内」側に含まれてしまっているので、影響力が弱い傾向がある。一方で、「企業内」で交渉が完結することもあり、柔軟な働き方に対応しやすいという特徴がある。

 

労働組合のイメージはどうあれ、果たしてきた役割は大きい

労働組合の活動が身近ではない人にとって、もしかすると、映画化、テレビドラマ化もされた、山崎豊子の小説『沈まぬ太陽』が、労働組合のイメージを形作っているかもしれない。

『沈まぬ太陽』の主人公である「恩地元(おんちはじめ)」は、労働組合の委員長を務めたがゆえに、経営側に目をつけられ、アフリカに飛ばされるなどの左遷人事を食らう。懲罰的な人事の過酷さが、作中では強調して描かれている。

『沈まぬ太陽』に描かれているのは、一面的な見方なのだが、「組合活動をするとひどい嫌がらせを受ける」というイメージの普及に一役買っているかもしれない。

また一方で、「労働組合員」は、融通が効かず、権利運動に熱心で、企業活動の邪魔者、というイメージを抱く人も少なくないかもしれない。

だが、すでに上で述べたが、労働組合の活動の大部分は「お互いに納得できるルールを探っていきましょう」というもので、労働者側はもちろん、経営側側にとっても必要なものだ。

現在の20代、30代の労働者は、「組合活動にリソースを割くくらいなら、自らのスキルを高めて、会社に縛られずどこでも活躍できる人材になりたい」と考える人が多数派だろう。時代の流れを考えるなら、それはおかしなことではなく、妥当な判断だ。

しかし、歴史的には、「労働組合」が担ってきた役割は非常に大きい。

そもそも、今の労働者の権利がしっかり保証されているのは、過去の組合活動の結果であり、現在働いている正社員は、過去の「労働組合」の恩恵を受けている状態なのだ。

労働組合に加入するべきとはもちろん言わないが、組合の活動を時代遅れのものとして見下したり、意味のないものとして扱うのは、社会人の態度として褒められたものとは言えない。

 

労働組合の現状

独立行政法人「労働政策研究・研修機構」の「労働組合組織率、組合員数」からグラフを引用する。

「労働組合数の推移」は、以下。

 

「労働組合 推定組織率の推移」は、以下。

 

「組合数」自体を見ると、意外と減っていないように見えるが、パートタイム労働者の比率が増えている。

また、おそらくだが、在籍の名前を残しているが活動の実態はないという場合も多いだろう。

「推定組織率」を見ると、かなり顕著に減少の傾向がある。

「労働組合の現状」としては、「衰退のただ中にある」と見ても、間違いではないだろう。

また、労働組合が衰退しているのは日本だけではなく、アメリカやEUなどの先進国においても、労働組合の組織率は下がり続けている。

 

なぜ労働組合が衰退しているのか?

労働組合の衰退には、様々な要因があるだろうが、おそらく、最も大きな要因は「変化の激しさ」にあるだろう。

日本においても欧米においても共通して言えることだが、「今の会社や仕事がこの先もあるわからない」という状態であれば、組合活動を頑張るモチベーションがなくなるのは当然だ。

  • 「企業別労働組合」の場合、「この会社がいつまでもあるかはわからない」という理由で労働組合が衰退する
  • 「職種別労働組合」の場合、「この職種自体がいつまでもあるかわからない」という理由で労働組合が衰退する

旧来の「労働組合」は、企業であれ職種であれ、「この仕事が同じように続いていく」という前提のもとに成り立っていた。

しかし、機械化やイノベーションがすごい速さで進んでいるなか、「今ある仕事が10年、20年後にあるかわからない」という状況になると、労働組合にリソースを割く合理性がわからなくなる。

 

今から労働組合に加入するメリットはあるか?

では、労働者が、「今から労働者にメリットがあるかどうか?」だが、これはなんとも言い難い。

実態としてどういう活動が行われているのか、あまり一般的化されたデータが見つからず、「その企業、地域による」としかここでは言えない。

労働組合に参加することで、良い出会いがあったり、良い影響を得られる可能性もある。ただ、上述したように、既存の労働組合の枠組みに無理が来ているもの確かで、自分が労働者としてのスキルを磨いたり、余暇を楽しむ時間を削って労働組合に参加するメリットがあるかというと、難しい。

また、労働組合のデメリットとしてよく言われるような、「労働組合に参加すると出世に響くのか?」だが、このデメリットは「無い」とは言い切れない。原則として、企業は組合活動に対して否定的な評価を下すべきではないが、実際のところ、労働組合の活動がマイナス評価に繋がる可能性は否定し難い。

労働組合については、メリット・デメリットよりも、「義務」や「連帯」という側面がある。

「メリットを求めている」「デメリットを恐れている」という理由であれば、今の労働組合に、無理に参加することはおすすめできないかもしれない。

なお、労働者は、必ずしも社内の労働組合に入らなければならないというわけではない。「地域合同労組」のような、会社の外にある労働組合もある。また、正社員でなければ加入できないというわけではなく、パート・アルバイトでも労働組合に入れるし、近年はパートタイム労働者の組合員が増えている。

「待遇の改善を求めて集団で企業と話し合う」という、そもそもの労働組合の目的を考えるなら、すでに待遇が特権化していて出世に響くことを恐れる正社員よりも、パートタイム労働組合が組合活動をするほうが、むしろ自然だろう。

 

加入していなくとも労働組合への相談は可能

労働組合は、加入しなくても、相談することは可能だ。

水町勇一郎『労働法入門』では、「労働者が問題を抱えたとき」のガイドラインとして、労働組合への相談を最初に挙げている。

 

水町勇一郎『労働法入門』の要約と解説【1/3】

 

ほとんどの人は、労働問題についての選択肢として「法テラス」や「弁護士」への相談となってしまいやすいが、「まずは労働組合に相談してみる」という選択肢もあるのだ。

ただ、労働組合への相談が真っ先に選択肢に上がるのは、「会社との長期的な関係をこれからも続けていく」のが前提の場合だ。

「パワハラを受けたから会社を辞めるつもりだし、損害賠償も請求したい」という、前提からして決裂している場合は、労働組合の主旨とはややミスマッチになるだろう。

 

これからの労働組合の可能性は?

現在、労働組合が衰退していることは否めない。

しかし、だからといって、「労働組合はすでに終わったもの」とは言えない。

むしろ、「労働者が団結して企業と交渉する」というコンセプトは、これからますます重要なものになっていく可能性がある。

近年、影響力を増しつつあるのは、YouTube、Apple Store、Uber、Airbnbなど、労働者を雇用しないプラットフォームだ。

この手のプラットフォーム産業は、労働者を雇用せず、場を提供して、利用料(手数料)をとる。今はまだ競合が生まれる余地があるので、利用料は抑えられているが、もしYouTubeやAmazonの「一人勝ち」が続いて、競合がまったくいない状態になれば、利用料が引き上げられて、労働者が苦しくなるかもしれない。

そのようなとき、「団結した労働者」が、プラットフォームを提供する企業と交渉することが必要かもしれない。

企業や職種を土台とした労働組合が衰退していても、「団結した労働者が企業と交渉する」というコンセプトが終わったわけではない。

これから労働組合が必要になる可能性も、十分に考えられるのだ。

 

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