日本における「資格」の位置づけについて、気になる人は多いのではないだろうか?
- 取得難易度の高い資格を持っていると、採用時に評価されるのか?
- 就活のために資格を取るのは良い方法なのか?
- 何らかの資格を取ることで一発逆転は可能なのか?
について、この記事で答えていきたい。
なお、ここで論じる「資格」は、「職務に直結しない資格」のことを言う。
例えば、看護師になるためには「看護師資格」、教員になるためには「教職免許」が必要なのは当たり前なので、論じる意味がない。
ここでは、「簿記検定2級」「宅建」「基本情報技術者試験」「TOEIC800点以上」など、
- その資格を取らなければ就職できない専門職があるわけではない
- 誰もが受験資格を持ち、筆記試験のみで取得できる
というタイプの「資格」について論じる。
「職務に直結しない資格」が、日本企業においてどのように評価されるのか?、という話だ。
世の中には様々な企業があり、個々の企業ごとに人材評価の基準は様々だろう。ここでは、構造的な「しくみ」の部分から、「日本企業は資格を評価するのか?」を論じていく。
そもそも「資格」とは? 日本企業で「資格」が評価される理由
多くの人は、「資格」を取ることには興味があっても、「そもそも資格とはどういう性質のものか?」を考えることはあまりないだろう。
「資格」は、「企業の外部にある評価」という性質がある。
会社の中での「役職」は、その会社を辞めてしまうと、意味がないものになってしまう。
一方で「資格」は、会社を辞めてもその人のものであり続ける。つまり、「個々の企業を超えた評価」というのが「資格」の性質と言える。
日本と欧米の働き方を比較すると、日本は「企業」が重視される一方で、欧米は「職務」が重視される。この違いは、「ジョブ型」「メンバーシップ型」という言葉で説明されることも多い。
日本と海外の働き方の違いについて、より詳しくは、以下の記事を参考にしてほしい。
当記事の主旨に沿って、手短に説明するなら、
- 日本は、「同じ会社」に長く勤めることが前提の社会
- 欧米は、「同じ職務」を長く続けることが前提の社会
になる。
日本企業は、良くも悪くも、「会社の中」での位置づけが重視される働き方をする。そのため、欧米と比べて、「企業の外部にある評価」である「資格」は軽視されやすい。
欧米は、日本が会社を変えにくい社会であるのと同じくらい、「職務を変えにくい」社会だ。「職務資格」が重視されるので、その意味では、日本よりも「資格」の重要性は高い。
「企業の外部にある評価」である「資格」が強く機能しているからこそ、欧米は「企業を変えやすい」のだ。
以上のように、日本企業と欧米企業は雇用システムが異なるのだが、それゆえに「重視される能力」も異なる。
- 日本企業は、配置転換に応じられる「柔軟性」を重視
- 欧米企業は、職務契約をこなせる「専門性」を重視
という違いがある。
「メンバーシップ型」の日本企業は、長期的に雇用し続けることを前提に、社員に様々な職務を経験させる。
そのため、日本企業は、「具体的な職務能力」よりも「汎用的な対応能力」を社員に要求する。
日本の働き方では、「専門性」ではなく、「柔軟性(様々な仕事に対応できるポテンシャル)」が重視されるのだ。
「○○ができる技能を持つ」ことの証明である「資格」は、「専門性」に類する性質のものであり、日本企業の雇用システムとは相性が悪いかもしれない。
だが、専門性を重視しない日本企業だからこそ、「職務に直結しない資格」が意味を持つ。
欧米の場合、資格に対する考え方が厳密なので、「職務に直結しない資格」はまったく評価されない。
一方で、日本企業は、「職務に直結しない資格」であっても、「それを取得した努力」を評価してくれることがあるのだ。
資格の影響力が弱いからこそ、資格が汎用的に評価される
日本企業においては、「資格が重視されないからこそ、資格に意味がある」という状況が発生している。
欧米の場合、「この資格なら、この仕事」というのが厳密だ。だから、募集されている職務と関係のない「資格」は、まったく意味を持たない。
日本の場合、「汎用的な能力、ポテンシャルの高さ」が採用基準になるので、難関資格を持っていると、「ポテンシャルが高そう」「努力できる能力がありそう」というような理由で、評価されることがある。
日本企業では、例えば、
- 「事務職」ではなく「総合職」での採用でも、「簿記検定」を持っている人なら、「経理の考え方がわかっているし、配置転換によって経理関連の仕事が回ってくる可能性も高いから……」という理由で評価
- 特に海外と取引のない企業であっても、「TOEIC」の点数が高ければ、「これからはグローバル化の時代だし、語学試験で高得点を出せるなら、頭が悪いというわけではないだろう……」という理由で評価
などと、わりと曖昧な感じで評価されることもある。
これは、「大学の学部専攻」よりも、「大学の偏差値」が重視されるのと似ている。
「汎用的な能力」を重視する日本では、例えば、「偏差値の低い大学の経営学専攻」よりも、「難関大学の文学専攻」のほうが高い評価を得やすい。「難しい大学の入試試験を突破したポテンシャル」を評価しようとするのだ。
そして、日本の就活という文脈において、「職務に直結しない資格」は、「大学の偏差値」の代替のような機能を果たし、「難しい資格試験を突破したポテンシャル」が評価される。
- 欧米は、「資格」と「職務」が厳密に結びついているからこそ、「職務に直結しない資格」は意味がない
- 日本は、「資格」と「職務」が結びつかないからこそ、「職務に直結しない資格」が評価されうる
日本における「資格」は、欧米のように「その基準を満たせば確実に仕事がある」というものは少ない。その意味で日本は、「資格」の影響力が弱い社会と言えるかもしれない。しかしそれゆえに、「職務に直結しない資格」を取得した努力が評価されることもあるのだ。
資格を取ることに意味のある人、ない人
もし、就活生や転職希望者で、この記事を見ているなら、気になるのは全体の構造とかよりも、「で、結局のところ資格を取るのは良い選択なの?」に興味があるだろう。
率直に言ってしまうなら、
- 偏差値の高い大学なら「資格」はあまり意味がない
- 偏差値の低い大学なら「資格」の価値は相対的に高い
となる。
上で述べたが、日本企業において重視される指標は「大学の偏差値」で、「職務に直結しない資格」は、「大学の偏差値の代用」として機能する。
難関大学に入学できた場合、すでに基礎的な学習能力があることが証明されているので、「職務に直結しない資格」を取るメリットはそれほど大きくはない。
難しい入学試験を突破した人は、同じように資格のための勉強も得意かもしれないが、難しい資格を数多く取っても、そのぶんだけ企業に評価されるわけではない。むしろ「難関資格マニア」は、良くない評価をされる場合もある。
「なぜ日本の就職活動は理不尽なのか【就活くだらなすぎ問題】 」で詳しく述べたが、企業の採用担当にとっての「わかりやすい失敗」は、採用を決めた社員がすぐに会社を辞めてしまうことだ。そのため、優秀であっても、すぐに辞めそうと思われると、採用を見送られることになる。
特に「資格」は、「企業の外部にある評価」という性質を持つので、やたらとそれを重視していると、「会社に長く居てくれそうにない」と見なされやすいのだ。
高学歴にとっては資格はあまり意味がないが、学歴に自信がない人ほど、「資格」の価値は高くなる。
企業の採用担当からすると、有名大学の出身ではない場合、「基礎的な学力」や「努力を継続する習慣があるか?」に不安を持ちやすい。その際に、ある程度の勉強を必要とする「資格」があれば、その不安要素は解消する。
難関資格を取得した場合、面接の際にも自己アピールをしやすくなる。「自分は大学受験のときに頑張れなかったことに後悔があるので、何か頑張って勉強しようと思って○○の資格を取得しました」などの形で努力をアピールするのは、基本的に印象が良くなりやすい。
「資格」はコスパが良くないが、メリットもある
「就職活動」のみを考えた場合、「資格」は、それほどコストパフォーマンスが良いものとは言えない。
それを取ったからといって確実に就職に繋がるわけではないにも関わらず、それなりの勉強時間を必要とするからだ。
難関大学の出身の場合は、「就活のために資格」というのはあまり良い手段ではないだろう。それよりも、インターンや業界研究などにリソースを割いたほうが良い場合が多い。
また、偏差値の低い大学出身が、難しい資格をとったからといって、それだけで一発逆転が可能なわけではなく、良くて難関大学の卒業生と同じ土俵に上がれるという程度だ。
特に、就職活動が近づいてきた時期に資格の勉強を始めるのは、典型的な悪手となる。「資格」は長期的な視野を持ってやるべきで、就活直前ならば、もっと優先順位の高いことはいくらでもある。
基本的に「資格」は、それを手に入れる労力のわりには、得られるリターンがそれほど大きくはなく、「就活」という点のみを考えた場合、あまりコストパフォーマンスが優れた方法ではないのだ。
ただ、「ゴールが明確で、それに必要な努力がわかりやすい」というのが、「資格」の大きなメリットだ。
「努力が形になりやすいものに取り組む」というのは、それ自体に多くの利点がある。大学生や社会人はあまり勉強しない人が多いので、「資格のために毎日ちょっとずつ勉強する」という習慣があるだけでも、だいぶきちんとしているほうだろう。
また、「資格」は、企業を辞めても、永続的に効果を発揮するのが特徴だ。そのため、長期的な視野で考えた場合、努力しただけのコストを十分に回収できる可能性が高い。
「資格のために勉強を頑張る」というのは、向いている人と向いていない人がいるだろうが、やり方を間違えなければ、それほど悪いものではない。
- 資格を取るだけですぐに就職先が決まるとは思わない
- 自分に合った難易度の資格を適切に準備して取得する
のであれば、「資格」への挑戦は、就職のための方法として、十分に有効なものになる。
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