この記事では、就職活動や転職採用において、「採用面接をする側はどこを見ているのか?」「どういう基準に基づいて採用を決めているのか?」を解説していく。
「採用する側が何を考えているのか?」を把握した上で、面接の対策に挑むほうが、成功しやすくなることは言うまでもない。
これから面接を受ける予定のある人は、ぜひ読んでいってほしい。
なぜ企業は面接をするのか?
アルバイトの募集から、外資系企業への転職まで、「面接」は必ずといっていいほどある。
そもそも、なぜほとんどの企業が「面接」を必須とするのだろうか?
客観的なスペックや職歴は、履歴書などの書面を見ればわかる。
書類やチェックシートに現れない、言語化・明文化できない「印象」や「直感」によって人物を評価しようとする試みが「面接」だ。
面接では、なんとなく、「一緒に仕事をしていけそうか?」「自分たちの会社で働けそうか?」など、「印象」や「直感」といったもので、応募者を判断しようとする。
「印象」や「直感」と聞くと、客観的ではなく、避けるべきもののように思うかもしれない。
だが、ユヴァル・ノア・ハラリ『ホモデウス』などに書かれていることだが、人間の印象や直感などの「情動」は、過去の膨大な経験から、一瞬で結論をアウトプットする、超高度なアルゴリズムなのだ。
『ホモデウス』では、「木にバナナがなっているのを見つけたヒヒ」の例を出しているので、それを引用したい。
ヒヒが木にバナナがなっているのを見つけたが、近くにライオンが潜んでいることにも気づいた。ヒヒはバナナのために命を危険にさらすべきだろうか?
これを煎じ詰めれば、ヒヒがバナナを食べなかったときに飢えて死ぬ確率と、ライオンに捕まる確率を計算する数学的問題になる。ヒヒはこの問題を解くためには、多くのデータを考慮に入れる必要がある。私はバナナからどれだけ離れているか? ライオンからの距離は? 私はどれほど速く走れるか? ライオンはどれほど速く走れるか? ライオンは目覚めているか、眠っているか? ライオンは飢えているように見えるか、満腹のように見えるか? バナナは何本あるか? バナナは大きいか、小さいか? 青いか、熟しているか?
(中略)
こうした変数や確率をすべて評価し、天秤にかけるためには、ヒヒは自動販売機を制御しているものよりもはるかに複雑なアルゴリズムを必要とする。
(中略)
ヒヒはいったいぜんたい、どうやって確率を計算するのか? 耳に挟んでいた鉛筆を手に取り、尻ポケットから手帳を取り出し、計算機を使いながら、走る速さやエネルギーレベルを計算し始めることなどありえない。じつは、ヒヒの体全体が計算機なのだ。私たちが感情や情動と呼ぶものは、じつはアルゴリズムにほかならない。ヒヒは空腹を感じ、ライオンを目にすると恐れと震えを感じ、バナナを見ると唾が湧いてくるのを感じる。ヒヒは一瞬のうちに感覚や情動や欲望がどっと湧き起こるのを経験するが、これこそヒヒの計算の過程以外の何物でもない。計算の結果は感情として表れる。
と著者は説明している。
生得的な機能や、過去の膨大な経験から導き出された演算の結果が、「感情」としてアウトプットされるのだ。
これは人間の情動にも当てはまる。
「何となくこの人は仕事ができそう!」とか「何となくこの人と働きたいと思った!」といった、情動による判断は、非常に高性能なアルゴリズムから導き出される結論というわけだ。
もっとも、多くの人が知っての通り、感情的な判断は大きく間違えることもある。
一方で、「印象」や「直感」などの情動は、人間の持つ非常に優れた情報処理システムなので、これを利用しない手はない。
そのため、企業は、
- 書面という「客観」
- 面接という「主観」
の組み合わせによって、二重チェックのように人物を判断しようとする。
「面接」は、実のところ、『ホモデウス』が説明するところの、「情動」という優れたアルゴリズムに多くを頼っている。
もちろん、「主観で判断しています」なんてことを大々的に言うことはできないから、面接も、あくまで客観的に判断しようとすることが前提ではある。しかし、面接が「情動」に多くを頼っていることは否定しがたい。
面接官はどこに着目しているか?
上で説明したように、「情動によって判断する」のが面接の本質だ。
言語化できない「なんとなく」のものを評価しようとするのが面接なので、「どこに着目するか?」といったものが明確にあるわけではない。
ただ、日本企業における採用基準をあえて言語化するならば、
- 気持ちの良いコミュニケーションがとれるか?
- 長期的な協力関係を築けるか?
- 指示されたことに対して柔軟に対応できるか?
というようなことが、重視されやすいとは言える。
「日本型雇用」については、当サイトでは、
などの記事で説明してきた。
日本型雇用は、「長期雇用が前提」であり、経営側が「労働者を簡単に辞めさせられない」のが特徴だ。
日本企業は、「うまく仕事ができない」というような理由で労働者をクビにすることはできない。一方で、働く内容や場所を変える「配置転換」を命じることができる。
「成果を出せない労働者を雇用し続けなければならないが、労働者の配置転換は自由に行うことができる」というのが日本型雇用だ。
そのため、特定の分野の専門性や、短期的に成果を出せる能力よりも、「柔軟な対応力があり、長期的な協力関係を築ける人間か?」が重視されやすい傾向にある。
営業職のように明確に成果がわかるものや、クビを切りやすい外資系企業では、もっと直截に「成果を出せそうか?」が判断される場合もあるが、日本企業は、労働者をちゃんと雇って育てようとする企業ほど「コミュニケーションがとれるか?」や「協力し合えるか?」をよく見ようとする。
面接官の立場で考えて、何が「失敗」か?
求職者を評価する面接官も、企業から雇われ、誰かから評価される側であることがほとんどだ。
「面接で評価する側の人がどのように評価されるのか?」を知ることが、面接を受ける側のヒントにもなる。
人材の「採用」においては、トップ人材のヘッドハンティングなどは例外として、「優れた人材を獲得しても短期的には評価されない」というのがある。特に日本企業では、その人物が会社に利益をもたらしたかどうかは、長期的なスパンで判断される。また、誰から見ても優秀な人材を採用した場合、それが採用担当の手柄として認識されるわけでもない。
「成功」が長期で見ないとわからないのに対して、「失敗」は短期的に可視化されやすい。
「採用」においてのわかりやすい失敗は、採用を決めた人材が
- すぐに会社をやめてしまった
- 実はまったく仕事ができない人材であることが判明した
などの形で、すぐに可視化されることが多い。
日本企業におけるほとんどの採用担当が恐れているのは、自分が採用を決めた人材が「すぐ辞める・すぐ働けないことが判明する」ことだ。
企業は「採用」に多くの金と手間をかけているので、わざわざ雇った人材にすぐ辞められるのは大きな損失であり、まったく会社に合わない人材を採用してしまうことの失態は大きい。
採用担当者の中には、一見評価されなさそうだが実は優秀な人材を発掘しようという熱意を持っている人もいる。また、一部の大企業の新卒採用では、一定の割合が辞めていくことを前提として、変わった人材を採用しようとするところもある。
だが、「成功は長期的に可視化されて、失敗は短期的に可視化される」以上は、基本的にほとんどの採用担当は、保守的になりがちだ。
「一見ダメそうに見えるけど、ひょっとしたら優秀な人間かもしれない」という人は、採用を決める側からすると、なかなか推しにくいという事情がある。
また、たとえ優秀な人材であっても、「すぐに辞めそう、会社に馴染めなさそう」と思われると、採用を見送られることがある。
採用担当の立場で考えるなら、「辞めなさそう」「すぐに露呈する欠点がなさそう」というのが、けっこう重要な判断基準なのだ。
日本の新卒採用においては、「面白みのない、画一的な人材が忌避される」というイメージが流布していたりもするが、目立つ欠点がなさそうと思われることは、面接においては決して悪いことではない。
面接は「プラスを増やす」よりも「マイナスを減らす」ことを意識
上で、
- 書面という「客観」
- 面接という「主観」
という二重チェックによって採用を決めていると説明した。
さらに言えば、
- 書面では「プラス」が見られる
- 面接では「マイナス」が見られる
傾向にある。
身も蓋もない話だが、人物評価の「プラス」要素にあたる部分は、学歴や資格や経歴など、書面上に表れる。
そのため、「書面上では優秀だけど実際は仕事ができない人」を回避するのが、面接の重要な役割になる。
面接に気合いを入れる人の多くは、機転の効く回答をしようとするなど、「プラス要素の獲得」を考えがちだが、実は面接官は機転の効く回答などはあまり重視していない。
まずは「すぐに辞めたり働けなくなったりしないか?」で、次に「長期的に協力関係を築ける人間か?」など、「マイナス要素が少ないか?」という保守的な判断基準である場合が多い。
面接で、くだらない質問や、要領を得ない質問がされることもある。そういうものに対して、「うまく」答える必要はなく、「無難に」答えればそれでいいのだ。
くだらない質問に対して、しどろもどろになったり、答えに詰まってしまうことは、さして大きなマイナスではない。不安になるほど狼狽するならともかく、嫌味な感じに思われず、誠実な印象を与えられれば、くだらない質問に対する回答としては十分に合格と言えるだろう。
優秀な人間ほど、茶番のような面接に対して嫌悪感を示してしまいがちだが、それこそがむしろ、面接でのマイナス要素を大きくする原因になる。
面接においては
- 嫌味なやつ
- 協調性のないやつ
- 責任感のないやつ
などと思われないよう、マイナスの印象を排除する意識が重要になる。
「プラスを増やす」よりも「マイナスを減らす」ことを意識するのが、面接の基本だ。
攻めの面接
面接は、「マイナス」要素を減らしていくのが基本であることを述べてきた。
とはいえ、日本の大卒新卒採用においては、「1000人の応募者がいて採用が10人」のような、倍率100倍を超えるような現象も、それほど珍しいことではない。
このような超高倍率の内定を獲得するためには、面接において「プラス」を獲得しなければならないのではないか、と考えるのは当然だろう。
実際のところ、大企業の新卒採用は、「学歴や経歴が十分」かつ「面接でのマイナス評価を最小化」したからといって、入社できるとは限らない。
とはいっても、そのような超高倍率を突破するためのセオリーのようなものは、基本的にはない。大学受験のような倍率3倍程度のものなら、正しい対策の方法というものもあるだろう。だが、倍率100倍を超えるようなものになると、セオリーなど存在しない。
倍率が高いほど、企業との相性や、面接官の気まぐれやタイミングなど、「運」の要素に強く左右される。
「絶対にこの企業に入りたい!」といった場合に、それを確実なものにするセオリーはない。企業と労働者の関係は、「恋愛」に近いものと言えるかもしれない。「絶対にこの人と付き合いたい!」と思っても、相手にはすでに恋人がいるかもしれないし、運や巡り合わせに大きく左右される。
求職者の多くは、面接を受ける企業で働く自分の姿を想像し、憧れを募らせる。それゆえに面接を断られることのショックが大きいのだが、優良企業に就職するための攻めの姿勢は「数をこなす」ことにある。
「運」に左右されるものであるからこそ、しっかり準備をするという前提の上で、なるべく多くの企業にエントリーしてみたほうが、良い結果を出せる可能性は高くなる。
数を受けることに囚われて、一つ一つをないがしろにしてしまっては本末転倒だが、条件の良い企業に入ることが目的の場合、一つの企業に強くこだわりすぎたり、奇をてらった苦労をするよりも、「数をこなす」ことこそが、結果を確実なものにするための戦略的な方法となる。
もちろん、「絶対にこの企業に入りたい!」という場合もあるだろう。その場合、
- その企業への熱意を強くアピールする
- その企業が扱う分野や関連しそうな分野の見識をアピールする
- 自分が面白く、機転の効く人間であることをアピールする
などが、面接においてプラスを獲得する方法になるだろう。
ただ、「良い内定先を獲得する」うえでは、一点集中よりも「数をこなす」のが王道の戦略であることは頭に入れておこう。
面接において重要なのは、内定先を断られたからといって、あまり落ち込まないことだ。
日本企業の面接は、人格を判断されているようなところもあり、「お祈り」は多かれ少なかれダメージを受ける。だが、そのようなものは「運」や「巡り合わせ」と割り切って、多めに企業を受けてみることが、結果を安定させる有効な方法と言える。
もちろん、自分の経歴以上のところばかり受けようとしたり、数にとらわれて一つ一つをないがしろにするのは本末転倒だが、履歴書や志望動機や自己PRなどは、いちど準備をすれば使い回しやすいものであり、「数を打つ」のは、現実的に有用な方法である。
特定の企業に入りたいという気持ちを否定する意図はもちろんないが、高倍率の企業に入社できるかどうかは運や巡り合わせにも左右されるので、面接の結果として不合格になっても、あまり傷つかないようにする心構えはしておきたい。
まとめ
- 「面接」は、書面によって言語化できない要素を「なんとなく」評価しようとし、「情動」に多くを頼っている
- 日本型雇用では、「長期的な協力関係を築ける人間か?」が重視されやすい
- 面接する側は、採用した人材が「すぐに辞めること」「すぐに働けないことが判明すること」を恐れている
- 面接では、「プラス」面のアピールよりも、「マイナス」面を少なくすることを意識するとよい
- 倍率100倍のようなものにセオリーはなく、運に大きく左右されるので、人気企業を狙うならば「断られるのが当然だから、数を打つ」のが王道の戦略
以上、「面接する側はどこを見ているのか?」という視点で、面接に有効な考え方を解説してきた。
この記事で述べてきたのは概論であり、業種や労働形態によって個別の面接対策が必要になるだろうが、当記事が何らかの参考になったのなら幸いである。
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