年功序列の日本社会においては、基本的に転職すると年収は低くなると言われる。
一方で、年功序列の雇用システムには限界が見え始めているし、産業構造の変化とともに、局所的な人手不足なども発生している。
転職には、運やタイミングも絡むがゆえに、積極的に年収を上げていこうとする姿勢は大事だ。
今回は、5千人を超える転職希望者と面接してきた転職エージェントである山田実希憲氏の著書『年収が上がる転職 下がる転職』を参考に、「転職によって年収を上げる方法」を解説し、考察する。
『年収が上がる転職 下がる転職』の著者である山田実希憲氏は、「年収が上がる転職」の主なパターンを、
- オンリーワン採用
- ピラミッド採用
- 経験延長採用
- 役職付き採用
の4つに分類している。
それぞれ解説していく。
オンリーワン採用
「オンリーワン採用」とは、「その会社に同じ経験を持った人がいない」という理由での採用である。
「オンリーワン採用」の例として、「ある会社が今までとは業態が異なる新規事業を立ち上げる際に、社内に経験者がいなかった場合」を著者は挙げている。
また、「社内にシニア層が多く、会社の未来をたくす人材がいない会社が若手の採用を行うケース」には、若年層という理由での「オンリーワン採用」がされる場合もあるという。
「新卒一括採用」による雇用が多い日本の会社は、社員の同質性が高くなりやすい。そのため、自社にたくさんいる社員とは別の経験を持っている人は、それなりの給料を支払ってでも雇いたいケースがあるのだ。
企業が、自社にいない人材を雇おうとするタイミングにうまくハマれば、それだけも「年収の上がる転職」ができる場合もある。
ピラミッド採用
「ピラミッド採用」とは、「登る山(ピラミッド)を変える」という意味で著者は使っている。
現在、年功序列の組織は、「上が詰まる」ことが起こりやすくなっている。
「日本型雇用に未来はあるか?「ネズミ講」と揶揄される年功序列の行方」で詳しく述べたが、日本型雇用は、より多くの新卒社員が毎年入ってくるのが前提で出来上がった仕組みだ。
それができなくなった今、上のポストが埋まってしまっている状態で、かつてよりも出世が難しくなる・出世の速度が遅くなるケースが見られるようになっている。
そのようなとき、年功序列の制度の中で一定の経歴を積んだ人が、「ピラミッド(会社)」を変更することで、年収アップが見込める場合があるのだ。
著者は、「ピラミッド採用」の例として、「上場企業での経験をもってベンチャー企業に移る」場合を挙げている。
たとえ転職前より企業ネームバリューが劣ったとしても、より将来性のある企業や、会社の人員構成的に自分が出世しやすい企業に行けば、年収アップが見込めるのだ。
経験延長採用
著者は、「自分の勝ちパターンを知っていて、その勝ちパターンで戦える会社を選ぶ」ことを、「経験延長採用」と呼んでいる。
業界トップの企業と、新興の企業とでは、業界トップの企業のほうが待遇が良いことが普通だ。
しかし、営業職のような実力が重視される職業で、特に「自分の勝ちパターン」が明確な場合は、必ずしも大手だからといって給料が高くなるわけではない。
例えば、若年世代の営業が苦手で、シニア営業を得意としている営業職の人材がいたとして、顧客層のより好みができない大手よりも、シニア営業に特化した企業に移籍したほうが、より稼ぎやすくなる。
「経験延長採用」で成功するためには、自社以外の競合他社にも目を向け、業界全体における自分の立ち位置を意識する視点が重要になるという。
役職付き採用
「役職付き採用」は、「役職付きの仕事(マネジメント職)を求めて転職する」ことを言う。
転職エージェントとして働いた著者の経験によると、マネジメント経験がまだないのだが、マネジメント職に付きたいので転職したい、と相談してくる人が、特に30代に多いらしい。
必ずしも給料を上げたいという理由ではなく、給料が下がってもいいからマネジメントの経験が欲しい、という理由で転職したがる人が多いそうだ。
日本型雇用では、年功序列で昇進した人が、「役職付き」のマネジメント職になっていく。だが、上でも述べたが、多くの日本企業は上が詰まっている状態であり、新卒が少ない企業では特に、30代の中堅社員になっても、マネジメントの仕事がなく、プレイヤーとしてずっとやっていかなければならない場合が多いという。
そのような現状に対し、プレイヤーとしてのキャリアに限界を感じて、自分のチームを持って部下を育て、組織をマネジメントしていく経験を求める層が一定数いるのだ。
以前までの経験を生かした上で「マネジメントできる役職を求める」転職の場合、それが成功すると、年収が上がる場合が多い。
生涯年収が上がる転職を目指そう
『年収が上がる転職 下がる転職』において、「年収が上がる転職」のパターンとして著者が位置づけているのは、
- 「オンリーワン採用」……自分と同じタイプの人材がいない企業に移る
- 「ピラミッド採用」……より自分にとって有利な「年功序列(ピラミッド)」に移る
- 「経験延長採用」……自分の勝ちパターンをより発揮しやすい企業に移る
- 「役職付き採用」……役職(マネジメントの仕事ができる立場)を求めて転職する
となる。
すぐに転職をするつもりがない人であっても、上のケースを意識して自分のキャリア戦略を考えていくと良いかもしれない。
ただ、これは『年収が上がる転職 下がる転職』の著者も述べていることだが、「年収が上がる転職」だからといって、必ずしも良い転職とは限らない。
「年収」は、転職した時点での年収ではなく、「生涯年収」で考えるべきだからだ。
トートロジー(同語反復的)ではあるが、「年収が上がる転職」は、「年収が上がる転職」をすれば実現できる。
転職する際には「年収」が提示されるわけで、自分のそれ以前の給料よりも高い年収を提示している企業への就職が決まれば、それでもう「年収が上がる転職」だ。
しかし、年功序列の日本企業においては、同一企業での勤続年収によって給料が上がっていくので、転職して短期的には年収が上がっても、生涯年収は下がっている場合がある。
「転職サービスは悪なのか?そのビジネスモデルを検討する」の記事でも述べたが、転職エージェントなどの仲介業は、労働者が頻繁に職を変えるほど儲かりやすくなるので、転職への動機づけを強くするようなポジショントークを言いがちだ。
「年収」は、労働のモチベーションや、自分の市場価値の可視化といった点で、最もわかりやすい指標ではあるが、日本社会においては、「現在の年収が上がる転職」=「生涯年収が上がる転職」とは限らない点には注意したい。
もっとも、「将来」が不確定な時代に「生涯年収」を考えることなんてできない、という考え方もある。年功序列の崩壊を恐れているからこそ、転職に踏み出そうとする人も多いだろう。
「転職を検討するときに考慮したいこと」でも述べたが、転職をするならば、「今の企業にいるよりも、別の企業に移ったほうが可能性が開ける」という、ポジティブな動機によるものが望ましい。
良くも悪くも、日本型雇用は硬直性のあるシステムなので、その矛盾に突き当たっている企業や、人手不足に苦しめられている業界がある。転職は、運やタイミングも絡むが、積極的に自分に有利な転職先を探していく姿勢があれば、自分にとって有利な転職(生涯年収や待遇が良くなる転職)ができる可能性は十分にあると言えるだろう。
むやみに転職を勧める言説には注意が必要だが、転職によって状況が改善する可能性もある。この記事が、転職をしようと考えている人の参考になったのなら幸いだ。
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