会社が副業を禁止するのはおかしい?法的根拠、判例、社会制度などの側面から解説

副業をしている人や、副業に興味のある人は多いだろう。

一方で、「会社が副業を禁止している」場合がある。

そのとき、「勤務時間外の自由な時間にやる副業を、会社側が禁止するのはおかしいのではないか?」と考える人は多いだろう。

今回は、「会社が副業を禁止するのはおかしいのか?」「実際のところ、副業はやってもいいの?」というテーマを解説していく。

単なる意見や思いつきではなく、法と社会制度の側面から解説していく。

なるべくわかりやすく、噛み砕いて説明するつもりなので、「会社員の副業」の是非について、ちゃんと知りたい人は参考にしてほしい。

副業禁止の法的根拠となる「就業規則」とは何か?

まず、公務員の副業については、「国家公務員法第103/104条」「地方公務員法第38条」に禁止する規定がある。

公務員の副業は法律で禁止されている。

一方で、民間の会社員の場合、副業を禁止する法律は存在しない。

民間企業における副業禁止は、それぞれの企業の「就業規則」に定められている。

つまり、会社員にとって「副業」は、法律違反ではないが、「就業規則」違反になるのだ。

多くの人が混乱しやすいのが、「就業規則」というもの位置づけだろう。「就業規則なんていう会社が勝手に定めたようなものが、会社員のプライベートを規定するほどの法的効力を持つものなのか?」と多くの人が考えるかもしれない。

ここから、「就業規則」の法的な位置づけについて、ざっくりとだが解説する。

まず、「法律」は、「多様な実態を一括ルールで制限する」という側面を持つ。

「働き方」を例に考えてみよう。

世の中には多種多様な仕事がある。

毎日一定の出力を求められる仕事、限られた時期に負担が集中する仕事、ミスをしないことが大事な仕事、失敗を織り込んだ上で試行回数を稼いで成果を出そうとする仕事……などなど、世の中の仕事は、労働形態が均一とは言えず、業種によって働き方が全然違う。

そんな多種多様な仕事を、「法律」という一括のルールで制限しようとしても無理がある。

そのため、「労働法」は、雇用者と労働者との間で作られた取り決めを、「法源(法の正当性の根拠)」として認めているのだ。

「法律」の画一的なルールだけでは多様な労働の実態に対応できないので、それぞれの業種ごと、それぞれの企業ごとの話し合いで作ったルールを、法的な効力のあるものとすることを、「労働法」は認めている。

以上のような発想から、企業の「就業規則」も、「法源」になりうるとされる。

労働において、「法律」以外の法源となり得るものに、以下がある。

  • 「労働協約」……会社側と「職業別労働組合」とで作られる
  • 「就業規則」……会社と「企業別労働組合」とで作られる
  • 「労働契約」……会社と個人との契約

法源としての効力の強さは、「法律」→「労働協約」→「就業規則」→「労働契約」の順になる。

「法律」が一番強く、「協約」「規則」「契約」は、「法律」に反しない限りにおいて効力を認められる。

水町勇一郎『労働法入門』によると、国ごとに、「協約、規則、契約」を重視する比重が異なるようだ。

  • 「職種」を重視するEU諸国は、職業別労働組合による「労働協約」の影響力が強い
  • 「会社」を重視する日本は、企業別労働組合による「就業規則」の影響力が強い
  • 「個人の契約」を重視するアメリカは、企業と個人との「労働契約」の影響力が強い

という違いがある。

日本は「会社」の影響力が強い社会構造の国であり、会社による「就業規則」が、比較的重視される傾向がある。

「就業規則」という言葉から、「会社が勝手に定めたルールが法源になるの?」と思う人もいるかもしれないが、労働組合との話し合いによって作られるものなので、会社が勝手に作れるルールとは言えない。

なお、「会社」よりも「職種」の影響力が強い欧米の場合、その職種の企業グループと、職業別労働組との話し合いによって、「その職種におけるルール」が作られ、それが「労働協約」となる。

日本は、欧米の「職業別労働組」とは違って、「企業別労働組合」であり、企業側と、企業側労働組合との話し合いによって、「就業規則」が作られる。

つまり、「経営側と労働組合との話し合いによってルールが作られる」ことは、日本も欧米も変わりない。

  • 職業別労働組の欧米→「労働協約」
  • 企業側労働組合の日本→「就業規則」

という形になりやすいのだ。

それでも、「就業規則」は、企業側が一方的に作成できる側面がないわけではないので、法源の強さとしては「労働協約」よりも下に位置づけられる。

解説が長くなったが、まとめると

POINT

  • 民間企業で副業が禁止されている場合、企業の「就業規則」に定められている
  • 「労働法」では、経営者と労働者の話し合いによって作られるルールに、法源としての効力を認めている
  • 「企業別労働組合」の日本では、経営側と労働組合とで作られるルールが「就業規則」になりやすく、それゆえに「就業規則」が重視されがち

となる。

このような話についてより詳しく知りたいなら、水町勇一郎『労働法入門』濱口桂一郎『日本の雇用と労働法』を参考にすると良い。

当サイトでは、各著者の『要約と解説』記事も書いているので、よければそちらも参考にしていってほしい。

水町勇一郎『労働法入門』の要約と解説【1/3】 濱口桂一郎『若者と労働』の要約と解説①

ではこれから、副業禁止の「就業規則」の法的効力の強さは、実際にどの程度のものなのか、より踏み込んで解説していく。

 

どうやって正当性が判断されるのか?

会社が社員の副業を禁止することに対して、「就業規則は、その会社で働く際のルールを定めるものであって、業務時間外のふるまいを制限するのはおかしくないか?」という論点がある。

一方で会社側には、「副業にリソースを割くことで、本業がおろそかになる」「副業が本業と競合する場合がある」「会社の社会的信用が傷つくリスクがある」などの理屈を持っている。

これについては、白黒はっきりするものではなく、それぞれの状況に応じて、裁判や労働審判によって判断されることになる。

まず、「副業」といっても、「どの程度の副業か?」によってまったく条件が異なる。

  • 会社の業務とは関係なく、勤怠にも問題がない場合
  • 会社の業務とは関係ないが、勤怠に問題があった場合
  • その会社とは別に、他の会社と雇用関係を結んでいた場合
  • 会社に無断で、会社のリソースをこっそり使って副業をしていた場合
  • 所属する会社とライバル関係のある企業に利する副業をしていた場合

など、一口に「副業」といっても、様々な場合がある。

 

次に、「就業規則」に反した従業員に、企業が課す制裁を「懲戒処分」と呼ぶのだが、軽い順に並べると以下のようになる。

  • 戒告、けん責(注意、始末書を提出させる)
  • 減給
  • 出勤停止
  • 降格
  • 論旨解雇(退職金の支給など、懲戒解雇よりも温情的な解雇。普通解雇と呼ばれることも)
  • 懲戒解雇

 

裁判や労働審判で争うときは、

  • 労働者の「就業規則の違反」の程度
  • 会社側の「懲戒処分」の程度

の両方が加味され、それが妥当なのかが判断される。

就業規則に副業禁止の規定が明確にない場合は、たとえ「戒告やけん責」程度の処置であっても、会社側が不当かもしれない。

就業規則に明確に禁止されていることを、会社に黙って行っていた場合は、「懲戒解雇」すらあり得る。

これについては、ケース・バイ・ケースであり、その人、その会社、その状況ごとに異なる。

以下では、過去の判例を見ていくことにする。

 

副業の禁止に関連する判例

概要だけ手短に説明していく。

内容については、全基連の公式サイトを参考にしている。そちらへのリンクも貼っておく。

小川建設事件(1982)

就業規則で副業が禁止されているにもかかわらず、勤務時間外にキャバレーで働いていた従業員が、会社から解雇され、裁判になった。

これは、会社側の解雇は妥当という判決になった。

  • 企業に無断で二重就職することは、雇用契約上の信用関係を破壊する行為と評価されうる
  • 単なる余暇のアルバイトとは言えない勤務時間だったので、本来の業務に支障をきたす蓋然性が高い

という理由で、従業員の解雇は、企業側の権利濫用ではなく、就業規則に則った妥当な処置という判決になった。

【小川建設事件】https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/00839.html

 

都タクシー事件(1984)

タクシー運転手が、非番の日に、会社に無断で輸送社の移送や船積みのバイトを、月平均で7、8回行っていた。就業規則には、会社の承認のない兼職は禁止されていて、企業側が社員を解雇した。

これは、会社側の解雇は不当という判決になった。

  • 就業規則では、会社の承認のない兼職は懲戒解雇事由とされていた
  • 非番の日や休日の兼業とはいえ、「タクシー乗務の性質上、乗務前の休養が要請されること等の事情」を考えると、就業規則で禁止されている「兼業」に該当する
  • しかし、何の注意や指導もしないまま、いきなり「解雇」を突きつけるのは、解雇権の濫用に値する

というのが論点だ。

副業した側の非を認めつつも、それに対する「解雇」という「懲戒処分」は重すぎるという判決が出された。

また、解雇が妥当とされた上の「小川建設事件」と比較すると、この場合、タクシー運転手の勤務日は1ヶ月あたり13日ほど(就労時間は午前8時から翌日午前2時)と、「非番や休日が多いタクシー運転手という働き方」だったことと、「短期や不定期のアルバイト」だったことが、差になっていると解釈することができる。

【都タクシー事件】https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/00853.html

 

十和田運輸事件(2001)

貨物運送などの仕事をしている会社の従業員が、本来の会社の業務とは別に、会社の車を使って製品を搬入して副収入を得ていた。それに対して、就業規則の違反として「解雇」が言い渡された。

これは、会社側の解雇は不当という判決になった。

この事件は、やや複雑なのだが、従業員を解雇した会社Yは、別の会社Aから営業譲渡を受けて設立した会社だった。そして、従業員を解雇するときに、会社Aの就業規則を使って従業員を解雇しようとしたのだが、それはダメだよね、ということになった。

  • その会社の「就業規則」には、ちゃんとした定めがなかった
  • アルバイトの回数自体は少なかった
  • 企業側がそれを黙認しているようなところもあった

などの理由から、従業員の解雇は、企業側の解雇権の濫用と見なされた。

「会社の設備を使って勝手に副業するのは常識的に考えてクビだろ」と考える人は多いだろうが、「就業規則」にしっかり記述があり、それが労働者に周知されていたかどうかが、法的な正当性を争う上では重要なようだ。

【十和田運輸事件】https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/07767.html

 

以上が判例の紹介になる。

上で紹介した判例からは

POINT

  • 「就業規則」が、法的な正当性として、それなりに重視されている
  • 「就業規則」に副業(兼業)を禁止する規定があれば、それに反した労働者への「懲戒処分」は妥当と見なされる
  • 副業の頻度や雇用形態が加味される

ことが見て取れる。

もっとも、上で紹介した判例は、複数の会社と契約していたり、会社のリソースを利用したりと、「労働者側の非が強い場合の副業」の例だ。

ブログやアフィリエイトや内職など、会社の業務とはまったく関係がなく、別の企業との雇用関係もないような片手間の副業では、それほど労働者の立場は悪くならない可能性が高い。

最近の人が知りたい例としては、例えば、「業務に関連する情報発信をブログやYouTubeで行っていて福収入があり、それが会社にバレて揉める」みたいなケースかもしれない。しかしこの手のものはまだ判例がない。

以下では、「会社側がどういう理屈で副業を禁止しているのか、逆に、副業を推奨する企業が増えているが、それはどういうことなのか」を解説していく。

 

副業を禁止する企業の理屈と、副業を解禁する企業の理屈

日本は、「会社」という枠組みが重視される雇用システムだ。これは「日本型雇用」と呼ばれる。

「日本型雇用」については、詳しく説明すると長くなり過ぎるで、気になる方は以下の記事を参考にしてほしい。

ざっくり言うと、「日本型雇用」は、「社員が会社に忠誠心を持つ代わりに、会社もそれに応じる見返りを与える」という働き方だ。

日本の会社員は、会社が命じる「配置転換(職種や職場の変更)」に従わなければならない。一方で、日本の企業は、社員を簡単に辞めさせられないし、年功序列で給料を上げていかなければならない。

「日本型雇用」においては、会社と社員は、「経済合理性」よりも「運命共同体意識」によって結びついている側面がある。

欧米的な権利の考え方で言うと、「職務契約に規定されない時間で、労働者が何をしていようと、企業が口を出す筋合いがない」となるかもしれないが、日本の判例法理などによって裏付けられる日本型雇用のシステムにおいては、そうではないのだ。

「日本型雇用」において、社員側が一方的に負担を押し付けられているわけではない。

企業側からすれば、よっぽどのことがなければ社員を解雇できず、年功序列で給料を上げていかなければならない。つまり、日本企業には「社員の面倒を見続けること」が求められている。

「雇い続け、年功序列で給料を上げ続ける」という義務を果たしている企業側からすれば、「副業で会社とは別に金を稼いでる」という社員の行為は、ある種の裏切りに映るだろう。

また、人間心理としても、「会社とは別に副業で稼いでいる」ようなことが、同僚や上司から好意的にとられることは少ない。

 

一方で、「日本型雇用」の反発からか、「副業を認める企業」「副業を推奨する企業」が増えてきている。

パナソニック、日産、丸紅、ソフトバンク、メルカリなど、知名度のある企業が、副業を認めたり、副業を解禁したりして、話題になっているのが最近の流れだ。

副業を認める企業の意図としては

  • 副業で成果を出せる人材は優秀であることが多いので、積極的に雇用したい
  • 自主的に金を稼ぎ出す人材にとって魅力的な職場を提供できる自信がある
  • ほとんどの人は副業をやってもうまくいかないので、むしろ確実に給料を払ってくれる会社に感謝するようになると考えている
  • 日本型雇用よりももっと流動的な雇用の仕方を志向している

などがあるだろう。

「日本型雇用」にも、それなりの合理性があるので、「副業を禁止しているから時代に対応できていない悪い企業」「副業を解禁しているから将来性のある良い企業」と判断するのは早計だろう。

ただ、「副業で結果を出すような人材を欲しがる企業」は増えている。「副業で稼いでいること」に対して、裏切り者と言われたりやっかまれるよりも、他でも稼げることが同僚や上司からリスペクトされるような職場が望ましい、という考え方もある。

「日本型雇用」のもとでは、「副業で稼いでいること」はマイナス要因になりがちだが、その関係から外に出た「労働市場」においては、「副業で稼いでいること」がプラスの要因になることは多い。

もしあなたが副業でそこそこ稼げているとしたら、自信を持っていいかもしれない。

 

そもそも副業は会社にバレるのか?

「同僚など誰にも言わず、こっそり副業していて、会社にそれがバレることがあるのか?」についても話しておきたい。

結論から言うと、副業は会社にバレるリスクがあるし、個人がそれをちゃんと隠し通すのは難しい。

日本企業では、企業側が所得税や住民税の納税手続きをして、天引きした給料を「手取り」として社員に渡す場合が多い。

副業で得た収入の確定申告を自分でしていた場合でも、「住民税」に関しては、本業分と副業分が合算された額の「通知書」になるので、それを処理する会社側は、「会社が払っているのと別の収入がある」ことがわかるのだ。

これに対して、対策は基本的に難しい。

「住民税を自分で納付する」という手段があるが、会社側には「なんで自分で払うの?」と思われるだろう。

また、会社から「住民税がちょっと多いけど副業してるの?」と聞かれたときに、「親族の事業に名義を貸してまして……」などのごまかし方が考えられなくもないが、欠勤の理由ならともかく、金銭が関わることで嘘をつくのはかなりおすすめしない。

「副業で一定の収入が出ている場合、それを会社から完全に隠し通すのは、基本的には難しい」というのが現状だ。

副業の種類にもよるだろうが、収益が出ていて税理士に相談できる余裕があるのなら、相談してみると何かしら良い方法を教えてもらえる可能性もある。

 

法的な正当性よりも、争いを避けたほうが賢明ではある

「就業規則」は、それなりに法的な効力を持つものの、会社側が好き勝手に「懲戒処分」できるわけではない。

上の判例では、労働者に非が大きいものを紹介したが、基本的に、ちょっとした副業程度では、労働者の立場はそれほどは悪くならない。

最近の副業ブームで注目されるような、ブログ運営、動画投稿、WEB制作、転売、株式など、他の企業と雇用契約を結ばないような副業をやっていて、なおかつ勤務において目立った問題がないのであれば、たとえ「就業規則」で副業が禁止されていても、企業がそれほど強い懲戒処分を下せない場合が多いだろう。

企業が不当な懲戒を下してきた場合、労働問題の場合は、「労働審判」という、労働紛争を手短に解決するための手段があることを知っておこう。労働問題で裁判になると、体力のない労働者側が不利になってしまうがゆえに、近年では「労働審判」という迅速な手続きが整備されているのだ。

【労働審判制度について | 裁判所】https://www.courts.go.jp/saiban/wadai/2203/index.html

ただ、ひとりの労働者の立場からすれば、企業側と正当性を争っても何も得をしないので、揉め事はできるだけ避けるのが鉄則だ。企業側と戦って、それをSNSなどで公開すれば一時的に注目されるかもしれないが、メリットとしてはそれくらいで、基本的には時間と労力の無駄だろう。

「会社が副業を禁止するのは妥当か?」について、法的に争えば、副業する労働者側に正当性がある場合も多いだろう。だが、会社と喧嘩をすると、その時点で損をする。

「日本型雇用」の場合、仮に会社に裁判で勝った場合でも、それ以降の社内のキャリアが有利になるのは考えにくい。

 

 

以上、「会社が副業を禁止するのはおかしいのか?」について、法的根拠、判例、社会制度などの側面から解説してきた。

副業をしていて、それがとがめられるかどうかは、会社によるとしか言いようがない。

副業を解禁している企業もあるし、就業規則に副業禁止の規定があったとしても、経理部や上司がスルーする会社もあるだろう。

たいして儲かっていない副業であれば、そのために会社での立場が不利になるのは馬鹿らしい。一方で、副業が軌道に乗ってきてのであれば、副業に寛容な企業への転職も視野に入れたほうがいいかもしれない。

当サイトでは、転職に関する記事も書いているので、よければ以下も参考にしていってほしい。

 

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