「ブラック企業」とは何か?定義、特徴、判別方法、対応策を解説

今回は、「ブラック企業」についての解説を書く。

ブラック企業について調べようとしている人の多くは、「自分の会社はブラック企業かもしれないが、いったいどうすればいいのか?」と考えている場合が多い。

この記事は、そのような質問に対して応えることを意識した。

やや長くなるが、「判別方法」や「対応策」について、ちゃんとわかるように書いたので、ぜひとも参考にしていってほしい。

「ブラック企業」という言葉の厳密な定義はない

まず、「ブラック企業」という言葉には、厳密な定義がない。

「ブラック企業」は、「バズワード(流行り言葉)」として普及したが、特に定義があるわけではないのだ。

激務であっても、それが経験や出世に繋がるのであればブラック企業とは言えないし、薄給であっても、仕事が楽だったり、当人が満足しているならば、ブラック企業とは言えない。

「ブラック企業」という言葉をあえて定義するなら、「日本型雇用の慣行において、従業員に企業への献身を要求するが、その見返りが与えられない企業」となるかもしれない。

同調圧力、規範、常識というような「空気」によって、献身的に働かなければならないが、その見返りがなく、労働者が一方的に損してしまうような企業が、「ブラック企業」と言われている

では、なぜ日本において「ブラック企業」という現象が起こるのか?

以下では、それを解説していく。

 

「社員のモラルが高い」日本型雇用とは何か?

ブラック企業の正体を理解するためには、「日本型雇用」という、日本人の働き方の仕組みについて理解する必要がある。ここでは、要点を絞って、なるべく手短に説明する。

「日本型雇用」は、ざっくり言うと、「労働者は会社のために頑張り、会社はその報酬を後から渡す」働き方だ。

これは、具体的には「年功序列」という制度だ。

「年功序列」は、いわば「給料の後払い」のようなもので、会社を辞めれば本来の給料がもらえなくなるから、労働者は会社にしがみつく。

企業側は、労働者が辞めにくくなるので、自分のところの社員を育てていけるし、労働者側にとっても、企業に居続けるだけでキャリアップができるので、双方にメリットのあるやり方ではある。

このような日本型雇用は、実は、「社員のモラルの高さ」を生んできた。

「え、逆じゃない?」と思う人もいるかもしれない。「ただ会社に居るだけで給料が上がっていくのなら、労働者のモラルは低くなっていくのではないか」と考える人も多いだろう。

しかし実際のところ、日本社会は、欧米に比べて社員のモラルがめちゃくちゃ高い。

欧米は、「日本のように会社に縛られないが、会社に居続けるだけでは出世しない」社会だ。

このような欧米の働き方では、トップ層や専門人材の能力が高くなりやすいが、一般的な労働者のモラルは低くなりやすい。

なぜなら、格差が固定化して、末端の仕事の人たちが無気力になりやすいからだ。

欧米の場合、「正社員なら企業に所属しているだけで出世していく」わけではない。そのため、キャリアップを目指す人は「大学に入学し直して、新しい学位や資格を取る」というのが一般的だ。(だから欧米社会では、大学入学時の平均年齢が日本よりずっと高い。)

日本は、「会社」が労働者のキャリアップを担うので、大学に入り直すのではなく、企業に育ててもらうという感覚になる。このような日本型雇用は、会社に多くを頼りすぎるので不自由ではあるのだが、労働者に優しい側面もある。

「キャリアップのために、働いて金をためて大学に入り直す」のは、かなりハードルが高い。そのため、一部の成功者はいるものの、たいていの場合は「末端の仕事は、ずっと末端」になりやすい。このような社会では、労働者のモラルが下がる。

年功序列の日本型雇用は、正社員ならばある程度は横並びで出世していくので、欧米よりは格差の開きが緩やかだ。(正社員と非正規という形での格差は生まれるが、それでも欧米の「階層」が固定化される格差よりは緩い。)

また、「会社に所属しているだけで出世していく」年功序列は、「何もしなくて出世するから頑張らなくていい」となる人が多数派ではない。

「所属しているだけで出世していく」からこそ、社内の承認、連帯意識、義務感、責任感などに縛られる形で、一生懸命働く。

「終身雇用で面倒を見てくれる会社への献身」という形で、末端の社員でも高いモチベーションとモラルで働くのが、日本型雇用の特徴であり、強みとも言える。

日本人が「働くのがつらい」理由を構造的に解説」や「日本の上司や管理職はなぜ無能?女性比率が低い理由や欧米との違いを解説」の記事で詳しく書いたが、

  • 日本は「無能な上司と、自発的な現場」の組み合わせ
  • 欧米は「優秀な上司と、受動的な現場」の組み合わせ

でやっている。

日本のトップ層や、管理職は、海外と比較して能力に劣る場合が多い。なぜなら、経営のスキルや専門性が評価された人ではなく、「年功序列」で長く居続けた人が出世するからだ。

一方で、そのような「年功序列」が機能しているからこそ、現場の士気が高い。

日本企業の強みは「技術力」ではなく「現場力」」で詳しく書いたが、多くの日本企業は、日本型雇用だからこその「現場のモラルの高さ」を武器にした働き方によって、成果を出してきた。

そして、「社員のモラルが高い」という日本型雇用の「強み」こそが、「ブラック企業」の原因になっている。

 

日本型雇用の「強み」が「ブラック企業」を生む

日本社会の働き方は、「たとえ末端に位置するポジションであっても、責任感を持って仕事を頑張る」のが特徴だ。

実は、「現場の人たちが、自分の仕事に責任感を感じる」というのは、かなり特異なことだ。

欧米社会において、末端の人材が行う現場の仕事は、「裁量がないから責任もない」というのが常識的な発想になる。そのため、「たとえ目の前の仕事が終わらなくとも、自分たちの作業が遅いからではなく、それを設計した上司の責任だ」となるし、定時が来れば仕事が終わってなくても当然のように帰る。

日本企業では、現場にそれなりの裁量が与えられることが多い。

上司が厳密に管理するのではなく、現場にそれなりの裁量を持たせる働き方をするので、現場の社員は自分たちの仕事に責任を持つし、何か問題が発生すれば、「上のせい」とは考えずに自分たちで解決しようとする。

現場の社員たちが仕事に熱心にコミットするのは、「その会社で働き続けることでキャリアップしていける」という日本型雇用の前提が機能しているからだ。

労働者は献身を要求されるが、企業も「年功序列による出世」という見返りを用意しているので、労働者側にも企業側にもメリットのある取引になっている。

ちなみに、「日本型雇用」は、裁判所の判例法理などによって裏付けられたもので、単なる慣行ではない。そのため、経営者の独断で「これからは年功序列をやめて、実力主義でやっていきます」みたいなことができるわけではないのだ。

例えば、日本社会では、労働者を解雇するのが非常に難しい。これには理屈があって、もし簡単に解雇できるなら、「若いうちに働かせた社員が歳をとったら解雇する」みたいなことができてしまう。

「社員を簡単に辞めさせられない」からこそ「年功序列」が機能する。

  • 労働者は、たとえ末端の仕事であっても、責任感を持って仕事へのコミットすることが求められる
  • 会社は、労働者を簡単に辞めさせることができないし、年功序列で給料を上げ続けなければならない

このように、「社員の献身」と「企業が与える見返り」で成り立っているのが「日本型雇用」だ。

そして、いわゆる「ブラック企業」は、「社員に献身を要求するが、見返りを与えない」企業のことを指す言葉として普及していった。

日本型雇用は、双方にメリットのある理にかなった仕組みだったが、「ブラック企業」は、日本型雇用における「労働者に課せられた要求」の部分だけを利用する。

将来的に見返りを与えられるような業態でないにもかかわらず、労働者に献身を求めて使い潰す企業が「ブラック企業」であり、それは日本型雇用の仕組みの上に成り立っているのだ。

ただ、変化の激しい時代において、将来的な「見返り」保証は、どの企業にとっても難しい。

ある意味では、「日本型雇用」が無理なものになっているからこそ、「ブラック企業」と呼ばれるような現象が必然的に発生しているとも言える。

 

「ブラック企業」という言葉でごまかさず、むしろ「違法企業」と言うべき

「社員に献身を求めるが、その見返りを払わない(払えない)」企業が、「ブラック企業」であると述べた。

だが、「将来の見返り」というのは曖昧なものなので定義が難しく、「ブラック企業」という言葉を厳密に定義するのは難しい。

しかし、「ブラック企業」には定義がなくとも、「法律違反」には定義がある!

「ブラック企業」であることと、「違法なことをしている企業」であることは、選り分けて考えるべきだろう。

  • 法定の労働時間を上回る労働が恒常化している
  • 残業時間を意図的に記録しないようにしている
  • 残業代を支払わない
  • 法定の有給を取得させない
  • 厚生労働省が定める「最低賃金」を下回っている

など、「企業が違法行為をしている」場合は、「ブラック企業」うんぬんの話ではない。

「違法行為をしている企業」が、「ブラック企業(必ずしも違法を意味しない)」という言葉で呼ばれるのは、違法行為が曖昧になるような効果を持つので、あまり良い状態とは言えない。

現状の「ブラック企業」という言葉は、むしろ違法企業の味方として機能しているとさえ言える。

もし企業が違法なことをしていて、それが自分にとって大きな不都合になっている場合、「ブラック企業」がどうかとかどうでもいいので、労働局(総合労働相談コーナー)、労働委員会、法テラス、弁護士などへの相談を検討すべきだろう。

 

「ブラック企業」の判定基準と対応策

以上で述べてきたことをまとめると、

POINT

  • 「ブラック企業」は厳密な定義のある言葉ではない
  • 「日本型雇用」の「強み」となる部分から「ブラック企業」と言われる現象が発生している
  • 「日本型雇用」は、「社員が献身し、企業がその見返りを与える」という交換条件だが、「献身」だけを求めるのが「ブラック企業」
  • 企業の「違法行為」を「ブラック企業」という曖昧な言葉でごまかすべきではない

となる。

「自分の会社ってブラック企業なのでは?」と思ったときは、「献身を求められる(裁量や責任のある働き方を要求される)」ことを前提として、

  • 「献身を求められるが、見返りがありそう」→「ブラック企業」ではない
  • 「献身を求められるが、見返りがなさそうで、企業が違法行為をしている」→「ブラック企業」どころではない
  • 「献身を求められるが、見返りがなさそうで、企業が違法行為をしていない」→「ブラック企業」である

となる。

 

働いていて、つらい、大変だと感じたとき、「今の苦労には見返りがありそうか?」を考えてみよう。

「将来の見返りがあるかどうかは、将来にならないとわからない」ので、簡単ではないのだが、そうやって考えると問題がシンプルになる。

「見返りがありそう」ならば、腹を括って頑張るという選択肢もありだろう。

「見返りがなさそう」で、「企業が違法行為をしている」場合、証拠をつけるなどすれば、たとえ辞めるにしても、「会社都合退職」など、有利な条件を引き出せる場合が多い。

「見返りがなさそう」で、「企業が違法行為をしていない」場合、それでも我慢して働き続けるか、転職を検討するかになる。

 

以上、「ブラック企業」の解説と、その判定基準や対応策について書いてきた。

「ブラック企業」というのは曖昧な言葉なので、それよりも「企業が法律違反をしているかどうか?」にフォーカスして考えたほうがいい場合が多いだろう。

 

当サイトでは、転職関連の記事も書いているので、よければ以下も参考にしていってほしい。

 

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