会社を辞めるとき「会社都合退職」を狙うべきか、「自己都合退職」でいいのか?【失業保険】

会社を辞めて、なおかつ転職先が決まっていない場合、「会社都合退職」か「自己都合退職」かはけっこう重要だ。

もらえる「失業保険」の額面と期間が変わってくるからだ。

この記事では、会社を辞める場合、「会社都合退職」にしてもらうために努力するべきか、それとも「自己都合退職」でもいいのかを、詳しく解説する。

「会社を辞めたいけれど、転職先が決まっているわけではない」という状況の方にとっては、かなり重要な話かもしれないので、参考にしていってほしい。

なぜ「会社都合退職」にしてもらうべきなのか?

「会社都合退職」のメリットは、「失業保険」でもらえるお金の量が増えることだ。

正社員で働いていた人は、「失業保険(雇用保険)」に必ず入っているので、1年以上(「会社都合退職」の場合は半年以上)勤めた会社を辞めると失業保険をもらえる。

「失業保険」は、多ければ1日6000円から7000円もらえるし、給付期間も最長で1年近くあるので、仕事を辞めた人にとっては馬鹿にできない制度だ。

また、失業保険の被保険者は、「公共職業訓練」という、次の仕事に繋がる職業訓練を無料で受けられる上に、受講手当も支給されるという、かなり美味しい制度を利用することもできる。

「失業保険」の給付金額の算出方法などは複雑だが、受給者がやることは簡単で、「必要書類を持ってハローワーク行く」ことだ。あとは専門の職員が対応してくれる。

「失業保険」のために持っていくものは

  • 離職票
  • 身分証明書
  • 印鑑

だ。

「離職票」というのは、正式名称は「雇用保険被保険者離職票」で、従業員が辞めたときに会社が発行して、郵便で送られてくる。会社は、従業員が辞めると、その日の翌日から10日以内に手続きをしなければならない。

従業員の「離職証明」を管轄のハローワーク(職業安定所)に提出することと、離職票を発行することは、企業側が絶対にやらなければならない義務になっている。

もし2週間経っても「離職票」が届かない場合は、その旨をハローワークに相談しにいくといいだろう。

失業保険のあれこれについては、「厚生労働省のホームページ」に詳しい情報が載っているが、いずれにしろ手続きはハロワでやってもらう必要があるので、「とりあえず必要書類を持ってハロワ」と覚えておくといいだろう。

で、失業保険の受給の際に、「自己都合退職」か「会社都合退職」か、がとても重要になる。

詳細な額面や期間については、年齢や勤続年数などによって細かく変わるので割愛するが、例えば、

 

「自己都合退職」の場合

  • 保険に入っていた期間が1年未満なら0日
  • 保険に入っていた期間が5年未満なら90日

 

「会社都合退職」の場合

  • 保険に入っていた期間が1年未満、6ヶ月以上なら90日
  • 保険に入っていた期間が5年未満なら120〜180日

 

と、受給できる期間がけっこう違う。

また、「自己都合退職」の場合は、失業保険が給付されるまでに2〜3ヶ月の期間がかかるが、「会社都合退職」の場合は、1週間後くらいにすぐに給付が始まるので、その違いも人によっては大きいだろう。

 

「自己都合退職」と「会社都合退職」の違いについて

ふたつの違いは、字面の通り、「自分の都合」か「会社の都合」かで分かれる。

  • 「自己都合退職」……労働者側から辞表を出す
  • 「会社都合退職」……会社側が労働者に働きかけ、労働者が承諾する

具体的にどうやって判別されるかというと、離職証明書の「離職理由」の欄を見て、ハローワーク側が判断する。

なお、自分から辞表を出した場合であっても、何らかの労働問題や病気など、「正当な理由のある自己都合」だった場合は、「特定理由離職者」として、「会社都合退職」の扱いで失業保険を受けられる場合がある。(詳しくは「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準-厚生労働省」を参考。)

 

「会社都合退職」にしたくない企業側の事情

会社側は、あまり「会社都合退職」にしたくない場合が多い。

その大きな理由になりうるのが「助成金」だ。

「キャリアップ助成金」「トライアル雇用助成金」「労働移動支援助成金」など、厚生省が企業に出している助成金の制度があるのだが、一定期間内に「会社都合退職」を行っていないことが、給付のための条件になっている場合がある。

そのため、「助成金」を受けている企業は、「会社都合退職」を避けたがる。

また、助成金がなかったとしても、「会社都合退職」は、会社側が負うリスクが大きい。

日本は、簡単に労働者を解雇できない社会だ。そのため、会社側から辞めさせると、あとで訴訟を起こされたり、SNSで会社の問題を告発されて裁判になったときなど、不利になりやすい。

会社側からすれば、余計なリスクや負い目は避けたいので、労働者側が辞表を出して「自己都合退職」してくれたほうが安心なのだ。

ただ、助成金などの事情はともかく、「失業保険のために会社都合退職にしてほしい」という労働者の意図が明確な場合は、それによって会社側が金銭的に損をするというわけではないので、交渉などによって「会社都合退職」にしてもらえる余地は十分にある。

 

「会社都合退職」の場合、再雇用や転職において不利になるのか?

「会社都合退職」のデメリットとして言われているのが、次の仕事のための面接などにおいて、「会社都合退職」だと面接官の心証が悪くなりやすい、というものがある。

「自己都合退職」ではなく「会社都合退職」の場合、トラブルを起こした、能力が足りないなどの理由で、「前の会社に辞めて欲しいと思われた」とみなされ、面接官から低く評価される場合があるということだ。

これについてだが、まず、再就職の面接において、「自己都合退職」か「会社都合退職」かをいちいち聞かれる場合は多くない。

そもそも、普通の履歴書や職務経歴書には、「退職理由」を書く欄がない。「退職理由」の欄がある履歴書のフォーマットも存在するが、あえてそれを使う必要はどこにもない。

履歴書に退職理由を書かせる企業もないとは言わないが、わざわざそんなところを選んで受ける必要もないだろう。

だが、「会社都合退職」かどうかは、企業側は調べようと思えば調べることができるのも事実だ。

企業の応募において、前の会社を辞めた証明である「離職票」の提出が必要な場合があり、離職票には「退職理由」が書かれているので、それで「会社都合退職」であることがバレる場合がある。

また、「失業保険の給付日数」を見れば、「会社都合退職」かどうかが類推できる。

では、「会社都合退職」であることがどれくらいマイナスになるかだが、明確な基準を示せる性質のものではないにしろ、「それほど恐れるものではない」ように思う。

企業側に肩入れする「社労士」や「キャリアアドバイザー」は、何かの脅しのように「会社都合退職」のデメリットを強調して、「自己都合退職」を勧めがちだ。

しかし、「会社都合退職」かどうかが面接の場でそこまで重視されるかはわからないし、「会社都合退職」だからという理由で労働者を避ける企業はそもそも労働者にとってもあまり良い企業ではないかもしれない。

なお、「会社都合退職」が、「懲戒解雇」と混同されている例もある。「懲戒解雇」は、会社の就業規則を違反した制裁罰として科されるもので、「懲戒解雇」だと明確に心証が悪くなる。

しかし、それ以外の人員整理などの理由での「会社都合退職」で、採用担当者の心証が悪くなるかというのは疑問だ。

ほとんどの場合、「退職したとき、自己都合だったか会社都合だったか」は重視されないし、認知もされない。

もし仮に「会社都合退職」の理由について聞かれたら、「実質的には自己都合退職だったのですが、会社側が会社都合退職にしてくれました」などと言っておけばいいだろう。(労働者側の都合で辞めても、会社側が「会社都合退職」にしてくれるというのはわりとある。)

  • 失業保険で優遇されるメリット
  • 再就職の際に心証が悪くなるかもしれないデメリット

のふたつを秤にかけた場合、「失業保険」のメリットのほうが確実なので、それなりの期間会社に勤めた人は、「会社都合退職」を狙ったほうが良い場合が多いだろう。

だが、「失業保険」が必要なければ「会社都合退職」のメリットもないので、会社を辞めたあとの仕事が決まっている「転職」の場合は、「自己都合退職」にするべきだろう。

 

退職代行サービスは「自己都合退職」であることに注意

世間には、退職の手続きを代行してもらう「退職代行サービス」がある。

「退職代行」は、料金は3万円(「NEXT」や「ガーディアン」といった業界標準サービスの場合)で、企業と労働者の間に入って、退職の手続きなどをやってもらえる。

「会社を辞める」ことは労働者に与えられた強い権利であり、退職代行に3万円を支払わなくとも、無料で可能だ。だが、日本の会社は内向きで暴力的になりやすく、第三者が介在することでスムーズになることが多いゆえに、退職代行が流行っているのだろう。

例えば、辞めたあとに「離職票」を送ることは企業の義務なのだが、あえてそれを遅らせるなどの嫌がらせをしてくるケースがあるという。もっとも、離職票を出さないというのは、企業側が露骨に不利になるような嫌がらせなので、まともな企業ならば絶対にそんなことはしないのだが、一応「退職代行(弁護士がバックについている企業)」が介在することで、牽制になる。

「退職代行」は、「離職票の発行依頼」も企業側に行ってくれる。(もちろんそれをやってもらうまでもなく、企業側は発行する義務があるのだが。)

退職代行は、別に使わなくてもいいサービスだが、3万円で心理的な安心を買えるので使われている。

ただ、「退職代行」をする際に注意しなければならないのは、「会社都合退職」ではなく「自己都合退職」になることだ。「退職代行」は、あくまでも、自分から辞めようとする労働者の代行に過ぎない。

もし労働問題などで弁護士を雇うことになれば、弁護士費用は必要なものの、「会社都合退職」にしてもらう交渉をすることも可能だろう。

「退職代行」を使う場合、3万円という超低コストだが、「自己都合退職」にしかならないことに注意しよう。

 

「会社都合退職」のメリットとデメリットまとめ

「会社都合退職」のメリットとデメリットは、以下のようになる。

  • 「会社都合退職」のメリット……失業保険で優遇される
  • 「会社都合退職」のデメリット……次の雇用で面接官の心証が悪くなる可能性がある

となる。

まず、「会社都合退職」の主なメリットは「失業保険」なので、次の転職先が決まっている場合は必要ない。むしろ「自己都合退職」で辞めるべきだろう。

次に、若年世代であれば、「会社都合退職」のメリットはそれほど大きくないかもしれない。「自己都合退職」であっても、1年以上の勤務経験があれば、90日間の失業保険をもらうことが可能だし、デメリットと秤にかけて、「自己都合退職」のほうが良いということも、若いうちならば十分に考えられる。

では、中年以降で、次の転職先が決まっていない場合だが、これは何としてでも「会社都合退職」にこだわったほうがいい。中年で、それなりの期間会社に勤めている場合は、自己都合か会社都合かで、もらえる失業保険の総額に大きな差が出てる。

「会社都合退職」によって失業保険が優遇される制度は、ほとんど中高年のためにあると言えるかもしれない。

中高年のリストラにおいて、企業側は自主的に辞表を出すよう圧力をかけてくるかもしれないが、なるべく自分からは辞めず、会社と交渉して「会社都合退職」にしてもらう努力をするのが賢明だ。

まとめると

POINT

  • 転職先がすでに決まっているなら「自己都合退職」が良い
  • 転職先がなく、まだ若い場合、「自己都合退職」でも良いかもしれない
  • 転職先がなく、中高年の場合、「会社都合退職」を狙うのが望ましい

となる。

なお、自分から辞表を出す「自己都合退職」であっても、ハラスメントや病気などの事情で辞めなければならなかった場合、その旨が考慮される場合もあるので、ハローワークで相談してみるといいだろう。

 

以上、「会社都合退職」か「自己都合退職」かの解説をしてきた。

当記事が参考になったのなら幸いだ。

 

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