就職氷河期の本当の原因は何だったのか?政府を恨み続けるのが見当違いな理由

就職氷河期世代は、いまだにその余波に苦しむ人が多い、現在進行形の問題だ。

「新卒での就活に失敗すると、キャリア形成が不利になる」という日本型雇用の貧乏くじを、世代単位で引き受けたのが「就職氷河期世代」ということになっている。

日本社会や日本政府を恨んでいる氷河期世代も、少なくはないだろう。

しかし、当の氷河期世代ですら、「就職氷河期の本当の原因は何だったか?」をよく理解できていない。氷河期世代が言いがちな「政府の対応が悪かった」「竹中○蔵が悪かった」というのは、見当違いである可能性が高い。

今回は、就職氷河期が起こった本当の原因について、詳しく解説していく。

就職氷河期はなぜここまで悲惨な状態になったのか?

就職氷河期は、「生まれた世代」という、当人にはコントロールしようのない理由によって、「限られた正社員の枠」を争う苛烈な競走をしなければならなかった。

ファーストキャリアを獲得できず、派遣社員やアルバイトとして働かざるをえなかった人たちは、氷河期が終わっても低い待遇に甘んじることが多く、当人たちにとって氷河期はまだ終わっていないのだ。

氷河期世代がいかに悲惨だったか、なぜ対策が難しいのかについては、「就職氷河期世代はなぜ悲惨だったのか?自己責任論、対策が進まない理由を解説」で解説しているので、詳しく知りたいならこちらを参考にしてほしい。

就職氷河期世代はなぜ悲惨だったのか?自己責任論、対策が進まない理由を解説【ロスジェネ】

氷河期の問題が根深いのは、「日本型雇用の欠陥に直面したのが氷河期で、当時は日本型雇用を否定する自由な働き方が提唱されていたが、結局のところ日本社会は日本型雇用を維持し続けた」ことにある。

日本型雇用が氷河期をきっかけに崩壊していれば、氷河期の問題にはもっとわかりやすい解決策があったかもしれない。しかし、日本型雇用は氷河期が終わっても影響力を持ち続けた。

「日本型雇用という制度の毀誉褒貶が定まらないこと」が、氷河期世代の問題を複雑なものにしている。

氷河期世代の当事者の間でも、

  • 「なるべく多くの人を正社員として雇用すべき」など、日本型雇用を肯定するタイプの意見
  • 「非正規の給料が正社員より低いのが問題」など、日本型雇用を否定するタイプの意見

の両方があり、どちらが正解というわけでもないので、明確な政策を打ちにくいのだ。

氷河期世代は、高度経済成長を経験した親世代や一回り上の世代からは「日本型雇用を否定して、自由な働き方を目指したのだから、自己責任だろ」と言われることが多く、氷河期が終わったあとの世代の新卒は、倍率が低い状態で「日本型雇用における正社員」のキャリアを歩んでいった。

「生まれた世代が違うだけで、ここまで待遇が違うのか」という実感を持っている氷河期世代は多いだろう。

しかし、氷河期世代の多くが悲惨な思いをしたのは事実でも、「政府が対応を誤ったから、自分たちはこれほど苦しい思いをした」と考えるのは、見当違いかもしれない。

以下では、就職氷河期が起こった本当の原因について検証していく。

 

そもそも「正社員」は誰もがなれるわけではない

「正社員として就職するのが難しかった」という不満は、他の世代からの同情を得られるものではない可能性が高い。

そもそも、「みんなが正社員になるべき」という前提に無理があるからだ。

実は、「日本型雇用」の枠組みにおいて、「年功序列」の正社員として働けていた人の割合は、全体の約3割に過ぎない。(詳しくは「小熊英二『日本社会のしくみ』第1章の要約と解説【日本社会の「三つの生き方」】」を参考)

70年代には、「一億総中流」などの言葉が言われていて、まるでみんなが正社員になれたかのようなイメージがあるが、もともと、日本型雇用の「正社員」として生活していた人の割合は、(養われている妻子を含めても)全体の約3割に過ぎない。

では正社員以外の人たちはどういう働き方をしていたのかというと、地方の農村で自営業、家族従業員として働いたり、正社員ではない仕事を転々としたりしていた。それでも農村がそこそこ豊かだったのが「一億総中流」の理由だ。

「日本型雇用」については、別の記事で詳しく解説しているので、深く知りたいのであれば以下を見ていってほしい。

日本型雇用(日本的経営)とは何か?メリットとデメリットを解説 「ジョブ型」と「メンバーシップ型」の働き方の違いを解説する【濱口桂一郎】 日本型雇用はいつからできたのか?今後どうなるのか? 日本の上司や管理職はなぜ無能?女性比率が低い理由や欧米との違いを解説

「日本型雇用」における「正社員」は、あくまでも「管理職候補」としての採用だ。

欧米の「ジョブ型」雇用の場合、一握りのトップ層が「管理職候補」としてキャリアを積んでいく。「日本型雇用」の場合は、そこそこに厳選された人たちが、「ゆるやかな管理職候補」として育てられる。

それでも、「管理職候補」であることは変わりない。基本的に、誰かが管理する仕事をすれば、誰かが管理される仕事をするものなので、「全員が管理職」というのは難しい。

「みんなが正社員として就職」というのは、かなり無理がある前提だ。

しかし、上述したように、日本型雇用の枠組みを壊そうとする動きも、結局のところ失敗してしまった。

「正社員」を拡張するのも破壊するのも無理なので、「就職氷河期」は、どうしようもない問題だった。

では、氷河期世代の、より本質的な原因は何だったのだろうか?

それは、「経済成長(豊かさ)」と「平等」が進んだことだ。

 

「経済成長」と「平等」が、就職氷河期を引き起こした

経済成長がもたらした、

  • 自営業の淘汰と、雇用労働者の増加
  • 高学歴化(大学進学率の上昇)
  • 人権意識の向上(女性も大卒正社員を目指す)

が、おそらく、より本質的な就職氷河期の原因だろう。

就職氷河期世代はなぜ悲惨だったのか?自己責任論、対策が進まない理由を解説」や「非正規雇用はなぜ増えたのか?本当は何が問題なのか?構造的な理由を解説」で詳しく述べたが、経済活動が成熟すると、収益性の低い産業が淘汰され、雇用労働者が増えていく。

今まで自営業として成り立っていたところが、やっていけなくなり、雇われて働く「雇用労働者」になるのだ。

例えば、地元の商店街で小売業をやっていた人が、大手のスーパーに顧客をとられて廃業し、そのスーパーの従業員として働くようになる……みたいなイメージだ。これと類似したことが、多くの産業で起こる。

そして、単純に、適当な自営業では事業として成り立たないくらい、仕事のハードルが上がる。

例えば、何かで失敗した人が、ラーメンの屋台を引くところからやり直す……みたいな昭和時代の牧歌的なイメージは、今の時代では考えられない。

有名ラーメンチェーンがしのぎを削る現在では、ラーメン屋の屋台は、誰もが一から始められる仕事ではなく、才覚や権利を持つ人が、なんとかやっていけるような仕事だろう。

ようは、「仕事として成り立つ」のハードルが、だんだん上がっているのだ。

戦後のすぐの人たちにとって、もちろん「日本型雇用」のレールなんてものは存在しなかったが、一から事業を起こして日本を復興した。それと同じことを氷河期世代ができるわけではないが、それは氷河期世代が無能だからでも無気力だからでもなく、「経済が成熟して仕事のハードルが上がった」からだ。

また、「大学進学率の上昇」と、「男女平等思想の普及」も、経済成長(仕事のハードルの上昇)と歩みを共にして進んでいった。

  • 「経済成長」……「仕事のハードル」が上がり、自営業が淘汰され、雇われて働く「雇用労働者」が増えた。
  • 「高学歴化」……大学まで進学できる人が多くなった。
  • 「男女平等」……女性が大卒正社員として働ける社会になった。

これらが進んだことが、就職氷河期が、過酷な競走になった大きな原因と言える。

就職氷河期の原因として「不景気によって企業が新卒採用の枠を絞った」「人口の多い団塊ジュニア世代だった」ことは指摘されやすい。一方で、「経済成長」「高学歴化」「男女平等」という、より根本的かもしれない要因のほうは、見過ごされがちだ。

「経済成長」「高学歴化」「男女平等」は「善いこと」であり、「善いこと」を追求した結果として就職氷河期という問題が起きたという考えは支持されにくく、「政府の失策のせいだ」などの意見のほうが支持は集めやすいのだろう。

しかし、身も蓋もなく言うと、「正社員」は多くて全体の3割程度の枠しかなかったのだが、「平等」になってみんなが正社員を目指したから競走が過酷になった、という話なのだ。

 

先進国に共通して起こる問題

経済成長によって仕事のハードルが上がり、既存の社会の仕組みが成り立たなくなるのは、日本のみならず、先進国に共通して起こっている現象だ。

アメリカでは深刻が格差が起こっているし、欧州では「ジョブ型」と言われる働き方の欠陥が露呈した。

日本では、出生率の低下が話題になるとき「もし日本が氷河期世代の対策をしていれば今頃は……」みたいなことがよく言われるが、日本以外の先進国も、移民を除けば、日本と同程度には出生率が低い。

「日本政府は就職氷河期の対策を決定的に間違った」と考えている氷河期世代は多いかもしれないが、世界中どこでも似たようなことが起こっている以上、当時の日本が特別に間違っていたと言うことはできない。

そもそも、「豊かさ」や「平等」などの「善いこと」を追求した結果として生じたデッドロックのような問題であるがゆえに、もし仮に時を遡れたとしても、氷河期を解決する明確な対策を提示するのは難しいだろう。

「豊かさ」や「平等」の結果として旧来の社会の仕組みが行き詰まるという現象は、経済成長を遂げた国に共通して見られるものだが、それが日本においては、「日本型雇用のレールに乗れない若者が大量発生」といった形で起こった。

そのため、日本型雇用だから氷河期世代が特に不利な目にあったという側面はある。しかし、日本が別のシステムであれば、別の形で似たような問題が起きていた可能性が高い。

小泉内閣が行った雇用の流動化政策を「氷河期の原因」として批判する氷河期世代は多いが、仮に日本が小さな政府の方向に梶を切っていなくても、「就職氷河期」は発生していたし、深刻な問題になることは避けられなかった。

「小泉改革のせいで格差が生じた」「派遣や非正規を増やす政策を提案した政府が悪い」と言われることが多いが、「男女差別が撤廃され、より多くの人が大学に進学して、正社員の枠を争う」という時点で、正社員になれない人は大量発生していたのだ。

「平等に競走できること」が根本的な要因なので、政府がどんな対策をしていたとしても、格差は必然的に生じていた。

順序としては、バブル崩壊や氷河期という「日本型雇用の限界」がまずあり、その対応として雇用の流動化が図られたのだ。今から振り返ると、それらは失敗に終わったが、当時の状況を鑑みればそれなりに妥当性はあり、そもそも国民の支持を得ていたからこそ、小泉政権は影響力を持っていた。

 

下の世代が極端に少なかったので、日本型雇用は維持されているように見えた

小泉改革が意図した通りにはならず、「日本型雇用」は氷河期が終わったあとも維持され続けた。

氷河期世代が不幸だったのは、日本型雇用が維持され続け、社会構造が変化しないまま、自分たちより下の世代が普通に「日本型雇用」のレールに乗っていたことだろう。

これについては、「人口比」という要因が大きいように思う。

「人口比」で見れば、氷河期世代である72年生まれ頃から、極端なカーブを描いて出生数が下がり始めた。

(「Wikipedia 合計特殊出生率―ファイル:日本 出生数と合計特殊出生率の推移」より画像引用)

 

氷河期世代の下の世代は、極端に人口が少ない。

経済活動は、出生数ほど一気に縮小するわけではないので、企業が例年よりも新卒の枠を極端に減らすわけではない。

そのため、氷河期世代よりも下の世代は、わりとすんなりと日本型雇用のレールに乗れるという側面はあったかもしれない。

当時の政府や日本人が意図していたほど、日本型雇用を否定する雇用の流動化が進まなかった上に、氷河期より下の世代は人口が少なかったので、限られた正社員の枠に比較的入りやすかった。

そのようにして、氷河期世代を置き去りにするような形で、日本型雇用は維持されたのだ。

だからといって、氷河期より下の世代が楽な道を歩んでいるのかというと、そう言い切ることはできない。どの世代であれ、大手企業の正社員に採用されるのは簡単なことではない。

「仕事のハードルが上がる」傾向は続いていて、下の世代になるほど、より高い能力を要求されるし、情報がコモディティ化したがゆえに、ある意味では氷河期よりも過酷な競走に晒されている。人口比の偏りにより、社会保証費などの負担がより重くのしかかってくるので、氷河期よりも下の世代のほうが得をしていると安直には言えないだろう。

ちなみに、氷河期より上の世代の人たちだって、誰もが正社員になれるわけではもちろんなかった。というより、女性だからという理由で進学を制限されたり、裕福ではないからという理由で進学を諦めたりなど、氷河期世代以上の不自由さと抑圧の中で生きてきた人も多い。

俯瞰して見れば、氷河期世代だけが、他の世代よりも一方的に損をしていると言い切ることはできない。

 

「就職氷河期が起こった本当の原因」のまとめ

当記事で述べてきたことを最後にまとめると、以下のようになる。

POINT

  • 日本型雇用における「正社員」として、ファーストキャリアを積めず、低い待遇で働き続けなければならない人が大量に発生したのが就職氷河期世代の問題。
  • しかし、「正社員」は、あくまでも「管理職候補」であり、「全員が正社員」という前提にそもそも無理がある。
  • 「不景気によって企業が新卒採用の枠を絞った」「人口の多い団塊ジュニア世代だった」に加えて、「経済成長による自営業の淘汰」「大学進学率の上昇」「女性が正社員として採用されるようになった」という要因によって、氷河期世代は過酷な競走を強いられた。
  • 「豊かさ」や「平等」という「善いこと」が進んだ結果として、既存の社会の仕組みの矛盾が露呈する問題は、先進国に共通して起こっている現象でもある。それが日本社会においては、「就職氷河期」という形で注目された。
  • 「日本型雇用」の古い枠組みを変えていくという当時の問題意識には妥当性があったが、結果としてうまく行かず、また氷河期の下の世代は人口が少なかったので、日本型雇用のレールに乗れた人が多かった。

というのが、就職氷河期のあらましだ。

氷河期世代の苦労を否定しているわけではないし、日本社会の矛盾が氷河期世代に特に集中したという側面はあっただろう。

しかし、就職氷河期という問題に対して、「当時の日本政府が悪かった!」「竹中○蔵のせいだ!」と言い続けるのは、気持ちはわかるが、問題を取り違えている。

もし仮に、当時の政府が「雇用の流動化(日本型雇用の解体)」とは逆の方針を進めていたとしても、「限られた椅子を大勢で争う」根本的な問題は変わらないので、競走と格差は避けられなかった。(むしろ「非正規雇用ですら働けない」状態になった可能性もある。)

氷河期の原因としては、「経済成長によって豊かになった(生産性の低い事業が成り立たなくなった)」ことと、「高学歴化と男女平等が進んで参加者が増えた」ことが大きい。

「ずっと憎んでいた敵は実は大したことがなく、今まで味方だと思っていたやつがラスボスだった」みたいな話なので、このような話を受け入れろというのは酷かもしれない。

もちろん、ここで述べてきた話が議論の余地なく正しいと主張するつもりはないので、「ここは違うのでは?」と思うところがあれば、コメント欄などに書き込んでほしい。

 

以上、「就職氷河期の本当の原因は何だったのか?」について解説してきた。

当サイト「経済ノート」では、社会問題関連の記事も書いているので、よければ他の記事も参考にしていってほしい。

 

10 COMMENTS

氷河期メニエール

どうでもいいよ
もう救われようがないんだから
乞食として生きていくよw

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匿名

世の中の移り変わりだから仕方ないんで貧乏しなさいって遠回しに解説してるだけの文章お疲れ様です。
余計に腹立つと思います。

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匿名

原因を今更分析してもな。
対応しなかったことに対して世代が辛い思いをしたわけで、そもそも最初の恨み?の対象の分析を間違えている訳なんだが。

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折り鶴

矛先が見当違いでも、恨みを溜め込むに至った過程がそもそもの根本原因。
無視、無関心で未就業者、失業者、就業困難者を放置。
非正規雇用を蔑視。
低賃金労働者を自己責任論で追い詰める。
こうやって犠牲者を数十年に渡り、数十万、数百万人規模で生み出せば、社会における信用が喪失する。
信用が喪失すれば、「払ったお金に見合う対価を返してくれるに価しない人ばかりの社会である」と皆が思うのでマネーが滞留する。
巨額の内部留保と預金額がその証明。

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匿名

正に正に就職氷河期ですが。今頃政策要らない、、、んなら早くに手を打って欲しかっただけ、、、。20年30年正社員できる人間今頃どれだけいるのかすら疑問しかないです。年金貰う前に死人出てるかもすら心配なんですけど?
ほぼほぼ転職か精神系やられた人ばかりですけど、、、

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匿名

転職も精神的病なってる人もかなりかなりいます。しかも年金貰う前に死人でまくりますよね?下手したら、、、

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