女性が働くのが当たり前の社会になった。
しかし、「働くのがつらい」と感じる女性は多い。
先進国は、「男は仕事で、女は家庭」という保守的な価値観を脱しつつあるが、一方で女性たちは、「仕事に専念してもつらいし、家庭に専念してもつらい」という新しい困難に直面している。
今回は、働く女性がつらい理由と、仕事と家庭の両立を要求される現代の女性特有の難しさについて解説する。
目次
どの社会でも「妊娠・出産」のハンディキャップを負う女性は不利になりやすい
日本の労働環境はまだまだ保守的であり、女性が働くことにハンディキャップを感じやすいから、改善していかなければならない、とよく言われる。
ただ、男性平等が日本より進んでいるとされる欧米社会も、働く女性が男性と比べて不利であることは変わりない。
平等な条件で能力を競い合った場合でも、女性には「妊娠・出産」や、それに付随する身体的・社会的なハンディキャップが発生しやすいので、不利になりがちだ。
そのため、欧米の場合は、「アファーマティブアクション(ポジティブアクション)」と呼ばれる、積極的な女性優遇政策によって、男女平等を図ろうとしている。
働く女性の労働政策については、濱口桂一郎『働く女子の運命』が読みやすいのでおすすめだ。当サイトでは「要約と解説」を書いている。

上の著作で詳しく解説されているが、「ジョブ型」と分類される欧米では「職務」が重視されるので、「職務」を割り当てるアファーマティブアクションが効果を発揮しやすい。
日本は「ジョブ型」ではなく「メンバーシップ型」の雇用システムなので、欧米の男女平等政策を見習っても、それを社会に適応しにくいという問題がある。
しかし、アファーマティブアクションを進めている欧米でも、「何が公正か?」を巡って喧々諤々の論争が起こっているので、それほど万能な解決策ではない。日本社会を欧米のような方向に寄せていけば男女平等が進んでいくというのも眉唾だろう。
また、より本質的な問題として、「ジョブ型」や「メンバーシップ型」と言われるような20世紀型の労働者の権利は、現代では形骸化しつつあるということだ。
Google、YouTube、AppleStoreなどのような、現代のプラットフォーム事業は、そもそも「雇用」という形をとらない。
「仕事ができる場をユーザーに提供して、あとは勝手にやって、稼げる人は稼いでくれ」という形式の働き方が広がりつつある。
そうなった場合、男性と女性は、特に制限のない場で競走することになるが、ハンディキャップを抱えている女性が不利になりやすいだろう。
後述するが、男女は、能力というより、モチベーションの面で差がつくことが多い。
男性は、仕事にフルコミットして得られるものが多い一方で、女性は、仕事にフルコミットすることのメリットが男性より少ないのだ。
市場化が進んだので、「家庭に専念」する女性も不利になる
主に「妊娠・出産」という要素により、同じ土俵で競い合うと、女性は男性よりも不利になりやすい。
保守的な価値観を重視する人は、女性の「妊娠・出産」をもっと評価するべきだ、と言うかもしれない。
しかし、現代は、「女性が家庭に専念する場合」でも、女性が不利になりがちなのだ。
なぜ家庭に専念する女性が不利なのかというと、「市場化(市場の影響力の増大)」が進んで、「お金で手に入るものが増えた」からだ。
「市場化が進むこと」と、「女性が家庭に入ること」は、一見関係なさそうに見えるが、実は、市場化が進むほど、家庭に入る女性が不利になる。
ここで言う「市場化(お金で手に入るものが増える)」について、詳しく説明したい。
基本的に、「市場」の影響力は、現代になるほど強まりつつある。
「市場」は、大昔から存在した仕組みだが、かつては周辺的なものに過ぎなかった。昔は、市場で取引されるものが今よりずっと少なかったので、金を稼いだからといって、何でもかんでも買えるわけではなかった。
中世や近世の社会においては、身分や役割はすでに決まっていて、余剰生産物などを効率的に交換するために「市場」があったが、「市場」で成功したからといって、必ずしも人生が変わるわけではなかった。
極端な例だが、例えば、中世や近世の時代に生きる農民が、膨大な金を稼いだとしても、上の身分に逆らえるわけではないし、村八分にされたら生活基盤を失って生きていけなくなっただろう。
一方で、現代では、金さえあれば、衣食住はもちろん、快適な環境や優れた娯楽が手に入る。
もちろん今も、金ですべてが手に入るわけではないのだが、時系列的に見た場合、金で手に入るものの範囲は広がり続けている。
「市場化」が進んでいるというのはそういう意味だ。過去と比べて、今のほうが、「市場」が持つ影響力はずっと大きい。
ここ30年くらいを見ても、ファミレスやコンビニの食のクオリティが上がったり、ゲームなどの娯楽作品の質が上がったり、快適な住居や高性能な電子機器があったりなど、「金で買えるもののクオリティ」は高くなり続けている。
性愛が商品化される傾向も進んでいるので、過去と比べて、金があれば異性や愛も手に入りやすくなっている。
そのため、今は昔よりも、「金を稼いでいるほうが有利」だ。
市場化が進んで、「金を稼ぐことの価値が上がった」から、昔のような「夫が働いて、妻が家事をする」というロールを今やると、男性側が有利で、女性側が不利になる傾向がある。
現代において、「自分も稼ぎたい」と考える女性は多いだろうが、それは単なる価値観の問題ではなく、現実的な力関係の問題なのだ。
現代の女性の困難は、正解がわからず、どちらにも振り切れないこと
現代は、「市場」の影響力が増しつつあるが、一方で、今の市場は「出生・子育て」を評価できる仕組みになっていない。
女性は、子供を産んで育てても、それが市場での評価には繋がらないから、自分で稼ぎながら子育てをするか、配偶者に頼るしかない。しかし、市場の影響力が増しつつあるがゆえに、お金を稼いでくる側が有利になりやすい。
また、女性は、自分で大きく稼げるようになったとしても、少なくとも「妊娠・出産」に関しては、基本的に自分がやらざるを得ない。(代理母に頼むのを良しとする思想もあるが、さすがに極端なので考慮しない。)
この女性が抱えるハンディキャップは、「妊娠の期間にキャリアが遮断される」に留まらない。
男女は、モチベーションの面で大きく差がつくのだ。
男性は、女性とは違って、自分では出産ができないので、配偶者に頼る以外の選択肢がない。そのため、男性は、「市場で成功すればすべてが手に入るが、失敗すれば人権がない」というような、「勝ち負けがはっきりする」傾向にある。ある意味で男性は、逃げ場がないからこそ全力で仕事に打ち込まざるをえないのだ。
一方で女性は、「市場で成果を出したからといってすべてが手に入るわけではない」ので、「勝利条件が明確ではなく、どちらにも振り切れない」という苦悩がある。
例えば、「起業」は、既存の社会制度に縛られないぶん、男女差がない公平な競走でもあるが、起業で成功するのは男性のほうが圧倒的に多い。(そもそも起業しようとする人に男性が多い。)
これは、能力ではなく、モチベーションの問題なのだ。男性には、リスクを負った先に得られるものが大きく、成功を目指すモチベーションが高い。一方で女性は、経済的に成功しても、それで自分の望みのものがすべて手に入るわけではない。
この手の問題は、例えば「男性の医者の婚姻率は高いが、女性の医者の婚姻率が低い」といった現象にも見ることができるだろう。
仮に制度的な男女格差が解消されたとしても、生殖戦略の違いや、成功に対するモチベーションという内在的な部分で、女性のほうが仕事が不利になる場合が多い。
現代の女性は、仕事と家庭のどちらかに突出するのではなく、両方をしっかりやることが求められやすい。
『呪術廻戦』という少年ジャンプの漫画に、女性は「実力」だけではなく「完璧」を求められる、というようなセリフがあるが、女性は「どちらかに振り切る」がやりにくいのだ。
(芥見下々『呪術廻戦』第5巻 第40話より引用)
女性は、市場競走で不利になりやすいが、一方で「市場」の影響力が大きくなっているがゆえに、家事や子育てを頑張っても不利だ。
- 「妊娠・出産」のハンデや、モチベーションの面で、市場競争で不利になりやすい
- 「市場化」が進んだために、家庭に専念しても不利になりやすい
というのが、現代の働く女性が抱える困難なのだ。
ようするに女性は、仕事に専念しても、家庭に専念しても、不利になりやすい。
まとめ :働く女性がつらいのはなぜか?
POINT
- 日本社会であれ欧米社会であれ、「妊娠・出産」というハンディキャップを抱える女性は、不利になりがち
- 「妊娠・出産」が不可能な男性側は、逃げ場がなく、仕事にフルコミットせざるを得ない傾向があり、それゆえに男女はモチベーションの面で差がつきやすい
- 市場の影響力が増して、お金を稼ぐことの価値が上がっているので、旧来の「家庭に入る」を一生懸命やったとしても、女性側が不利になりやすい
- 「仕事を一生懸命やっても不利」だし、「家庭を一生懸命やっても不利」というのが、現代の女性の困難
- 女性は、仕事と家庭のどちらかに特化することではなく、両立を求められやすい
というのが、女性の難しさ理由だ。
「働く女性」がつらいのはもちろん、「家事をする女性」もつらい。
「極端になりにくい」「フルコミットしにくい」傾向があり、「どちらか一方を選んでも、もやもやを抱えた状態」であるのが現代の女性のつらさで、これは特に、ハイキャリアの女性や、子供の多い女性に当てはまるだろう。
ただ、注意したいのは、女性が大変なぶんだけ男性が楽をしているというわけではない。
男性は男性で、「女性には想像できないレベルで人権が軽視される」場合があり、女性は「大勝ちにくいぶん大負けにくい」ので、どちらが得をしているというわけでもない。
根本的には、「市場化」が極端に進んでしまったのが「つらさ」の大きな原因で、自由で便利になったぶん、個々の労働者に要求される水準が上がり、全員がつらい社会になっている。
男女の対立をいたずらに助長するのが当記事の目的ではないことは理解していただきたい。
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