日本の生涯未婚率は上がり続けていて、今後も上昇傾向にあると予想されている。
(内閣府-少子化対策の現状よりデータ引用)
「結婚できない人」あるいは「結婚したくない人」が、なぜこれほどまでに増えたのだろうか?
「経済的な事情」を指摘する人も多いが、実はそれとは別の理由のほうが、未婚化・晩婚化のトレンドに大きな影響を与えている。
今回は、「なぜ結婚できない人が増えたのか?」を解説していく。
目次
経済的な事情が主要因とは言いがたい
「結婚できない人が増えた」ことの原因として、
- 日本が経済的に没落したから結婚できない人が増えた
- 若者に十分な給料が与えられていないから結婚できない
などの、「経済的な事情」が指摘されることはよくある。
実際に、「なぜ結婚しないのか?」というアンケート調査などでも、「経済的に余裕がないから」と回答する人は多い。
主観的に「金がないから結婚が難しい」と考えている人は多いだろう。ただ、マクロで見た場合、「日本が経済的にダメになったから」は、未婚化の直接的な原因とは言いがたい。
日本では、日本経済が絶好調になるバブル以前から、未婚化のトレンドが着実に進行していた。
日本以外の国でも未婚化が進んでいるが、一般的には、経済成長が進むほど、未婚率も上昇する。経済的に好調な国であっても、未婚化は進む傾向にあるのだ。
未婚率の増加は、少子化に繋がりやすく、人口比の偏りは様々な社会問題を生む。少子化問題について、「政府がもっとちゃんと経済政策をしていれば」という意見も多いが、その批判はあまり正当なものとは言えないかもしれない。
日本以外の先進国でも少子化は進んでいるので、「日本政府が対応を間違えたから少子化が起こった」のではなく、「少子化は先進国が共通して直面している問題」と考えるべきだろう。
先に結論を言うと、「結婚するかしないかを各自で決められるようになった」「情報が公開されて公平に競争できるようになった」といった、「善い」とされるものが、未婚化・少子化の原因になっている。
今の先進国が直面している少子化問題は、社会が「善く」なった反面として起こっている問題なので、一筋縄ではいかないのだ。
そもそも「みんなが結婚していた」社会が異常である
現代に生きる若者の感覚からすると、「みんなが結婚するのが当たり前だった社会」こそが異常だと思えるかもしれない。
最初にグラフを出したが、生涯未婚率が5%を切る社会など、今では想像することすら難しいのではないだろうか?
「クラスで一番モテなさそうな人間でも、パートナーを見つけて、子供を作ることができる」といった時代が、かつてはあったのだ。
かつては「結婚しなければならない社会」であり、周囲の圧力によって仕方なしに結婚していた人が多かった。自由恋愛が浸透するほど、未婚化が増加するのは当然のことだ。
「結婚しなければならない社会」「結婚することが当然の社会」においては、もし適齢期になって結婚していない人がいれば、家族や親戚や上司などが危機感を持って、適当な人を見繕って結婚させていた。
現代的な価値観を基準に考えるなら、「なぜ結婚できない人が増えたのか?」よりも、「なぜ昔はみんなが結婚していたのか?」という問い方をするべきだろう。
結婚は共同体を存続させるための「必要悪」だった。
そもそも、なぜ昔は「結婚」がそれほど重視されていたのか?
それは、共同体を維持する上では「強い」制度だったからだ。
「結婚」は、それが人類にとって本質的な制度だからでも、それをすると幸せになれるからでもなく、「集団が生き残りやすくなる」という理由で重視されてきた制度だ。
結婚は、自然なことでもないし、本能的な幸福を約束してくれるわけでもない。
これについて詳しくは、「「結婚=幸せ」は本当か?婚姻という制度と本能との関係を考察する」で書いているので、気になる方は参考にしてほしい。

そもそも「結婚すると幸せになれるから結婚が大事!」という前提が間違っていて、むしろ「結婚」は、人権を侵害したり制限したりする「必要悪」のような制度だが、生き残りに有利だから重視されてきた。
未婚率が上昇した根本的な要因は、「個人が幸せな人生を追求できるようになった」からだ。
「人々の自然な望み」を尊重するなら、むしろ結婚という選択肢を選ばない人が大半になる。
昔の人が結婚を重視するのは、周囲の圧力などによって「むりやり結婚させる」価値観を育んできた共同体が今日まで生き残ってきた、という理由による。
そして、情報が行き渡り、権利意識が向上した現在において、「結婚したくない」と考える人が増えるのは、当然のことなのだ。
「本当は結婚したくなかった人が、結婚しなくてよくなった」というのが、未婚率の上昇の根本的な要因なのだが、「結婚しなくてよくなった」人が増えれば、それだけ結婚相手を見つける難易度が上がり、「結婚したいけどできない人」も増える。
情報化・グローバル化によって、「結婚に値する相手」であることのハードルが上がった
「本当は結婚したくなかった人が、結婚しなくてよくなった」というのが、未婚が増えた根本的な要因だ。
ただ、「結婚したいかどうか?」を絶対的なものとして持っている人は少なく、「良いパートナーが見つかれば結婚したいし、見つからなければしなくていい」という人が大半だろうと思う。
それについて、「結婚相手として妥協できる相手のハードルが上がったこと」が、「結婚への圧力が弱まったこと」に次ぐ、「結婚できない人が増えた」理由であると言える。
経済成長した先進国は、「情報化、グローバル化、市場化」などと一般に呼ばれるような現象に直面する。
それによって、
- 情報がみんなに知らされるようになる
- 実力が反映されやすい公平なルールが整備される
といったことが起こる。
これらは、一般的には、「善い」こととして人々に受け入れられ、普及する。
しかしこれには、競争が過酷になり、「勝った人と負けた人の格差が大きく開く」という副作用があるのだ。
公平になったがゆえに、みんなが競争に巻き込まれ、結果として苦しむ人が増える。
二人が婚姻関係を結ぶという「結婚」という試みは、「グローバル(普遍的)」ではなく、「ローカル(局所的)」な傾向が強い性質のものだ。
一方で、世界はどんどん「グローバル(普遍的)」になっている。
- 「ローカル」は、不公平だが、競争がゆるい
- 「グローバル」は、公平だが、競争が過酷
現在は、昔と比べて、出会いの手段は驚くほど充実している。職場やバイト先や合コンなどの場に限らず、マッチングアプリやインターネットなどの手段で相手を探すこともできるようになった。
しかし、手段が開放されたからこそ競争が過酷になっている。一部の「モテる」人に興味・関心が集中し、それ以外のほとんどの人たちは「対象外」になる。
情報化が進んだ社会において、みんなが普段から「普通に」目にする人たちは、大勢の視界に入るほど注目を集められるという点において、上位数%のトップ層だ。
しかし、そのような上位数%のトップクラスが、「普通の人」として認知されがちな一方で、本当に普通程度のスペックの人は、「結婚相手に値しない劣った人」と見なされるようになる。
これは、冒頭で述べた「経済的な事情(若者が十分な経済力を得られないから結婚できなくなった)」に関連する話でもあるかもしれない。ここでいう「十分な経済力」というのは、実質的には上位数%レベルの収入のことだったりする。
ようするに、情報化・グローバル化とともに格差が開いたことによって、身近な人(ローカルな繋がり)に魅力を感じることができなくなってしまったのだ。
まとめ
POINT
- 未婚率の増加は、経済成長と近代化が進んだ先進国に共通して起こっている現象だ。そのため、「日本経済の低迷」や「日本政府の失策」が主要因であるという指摘にはそれほど正当性がない。
- 「結婚」は、それが善いことだからとか、自然なことだからとか、幸せになれるからという理由で重視されていたわけではなく、再生産に有利だからという理由で重視されてきた。
- 権利意識の向上などに伴い、結婚に対する周囲の圧力が弱まり、「本当は結婚したくなかった人が、結婚しなくてよくなった」のが、未婚率の増加の原因。
- 情報化・グローバル化の流れによって、手段が増えて公平になったが、それ以上に「結婚に値する相手」の基準が上がり、身近な相手に魅力を感じるのが難しくなった。
というのが、「結婚できなくなった(結婚したくなくなった)」理由だ。
「圧力が消えて自由になった」「情報化が進んで公平になった」といった「善い」ことの反面として、「結婚できない」という現象が起こっているので、これは一筋縄ではいかない問題だ。
未婚は特に問題ではないのだが、未婚化の結果として起こる「少子化」は、大きな社会問題だ。
「「結婚=幸せ」は本当か?婚姻という制度と本能との関係を考察する」でもう少し詳しく解説しているが、出生は人間の根幹の仕組みなので、出生力のない社会は強制的に修正を迫られる。未来のことはわからないが、今後は「グローバルな流れからローカルな流れ」に戻っていく可能性も考えられる。
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